
右:三浦文彰 ©Yuji Hori
小泉和裕がショスタコーヴィチの交響曲第10番を振る。
独裁者スターリンの死後、長い抑圧から解放された時代に書かれた、作曲家のもっとも個人的な感情が宿ったといわれる交響曲だ。苦悩とそれからの解放がドラマティックに描かれる。
ベルリン留学中、ヘルベルト・フォン・カラヤンに多くを学んだ小泉。そのカラヤンはショスタコーヴィチ作品を積極的には取り上げなかったものの、その唯一のレパートリーとして、三度も録音したのがこの劇的なシンフォニーだった。
その師匠譲りといっていい明快な色彩美、そして安定感のあるバランスによって作られる腰のすわったどっしりとした構え。小泉のショスタコーヴィチは、昨今の若手指揮者のようなスマートでスタイリッシュな演奏には決してならないはず。滑らかで実直な運びのなかに、豪放なサウンドがホールを満たすのではないか。長く深い関係を築いてきた都響から、ベストな響きを引き出してくれることを期待したい。
プログラム前半には、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を取り上げる。ヴァイオリン独奏は、三浦文彰。10代で世界的なコンクールで優勝して以来、国内外で活躍の場を広げる気鋭のヴァイオリニストだ。小泉と都響による、この上ないほどの安定感のあるサポートを経て、名曲中の名曲であるこのコンチェルトに、新しい風を吹かせてくれるに違いない。
文:鈴木淳史
(ぶらあぼ2025年12月号より)
小泉和裕(指揮) 東京都交響楽団
第1030回 定期演奏会 Aシリーズ
2025.12/18(木)19:00 東京文化会館
第1031回 定期演奏会 Cシリーズ(平日昼)
2025.12/19(金)14:00 東京芸術劇場 コンサートホール
問:都響ガイド0570-056-057
https://www.tmso.or.jp

鈴木淳史 Atsufumi Suzuki
雑文家/音楽批評。1970年山形県寒河江市生まれ。著書に『クラシック悪魔の辞典』『背徳のクラシック・ガイド』『愛と幻想のクラシック』『占いの力』(以上、洋泉社) 『「電車男」は誰なのか』(中央公論新社)『チラシで楽しむクラシック』(双葉社)『クラシックは斜めに聴け!』(青弓社)ほか。共著に『村上春樹の100曲』(立東舎)などがある。
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