能登半島地震の被災者に音楽を――京都&石川のジュニアオーケストラが合同演奏会を開催

広上淳一・松井慶太らのタクトのもと、つながる若い世代の想い

 昨年1月の震災、そして9月の豪雨により大きな被害を受け、今なお復興のさなかにある能登半島。石川県、そして被災地の人々に音楽を届けるため、京都市ジュニアオーケストラが来年3月、石川県ジュニアオーケストラとの合同演奏会、および被災地訪問コンサートを行う。10月16日、石川県立音楽堂内で本プロジェクトに関する記者発表が行われ、広上淳一(元・京都市ジュニアオーケストラ スーパーヴァイザー)、松井慶太(石川県ジュニアオーケストラ指揮者)らが登壇した。

左より:高野裕子(京都コンサートホール プロデューサー)、広上淳一、松井慶太
©京都コンサートホール

 このプロジェクトは、京都市ジュニアオーケストラのメンバーらが震災後「自分たちに何かできることはないだろうか」と考える中で、オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のアーティスティック・リーダーを務める広上が被災地に生演奏を届ける活動を行っていることを知り、その後に続きたいとの思いで立ち上がったという。昨年8月下旬より2ヵ月間にわたり、石川県内での演奏会実施のためのクラウドファンディングを実施し、目標金額300万円のところ、およそ1.5倍となる459万円もの支援が集まった。

 この支援金をもとに、まず来年3月22日に石川県立音楽堂で合同演奏会が開催される。松井率いる石川県ジュニアオーケストラ(72名)と、楽団の合奏指導者・東尾多聞が指揮する京都市ジュニアオーケストラ(56名予定)がそれぞれ持ち曲を披露した後、サン=サーンスの交響曲第3番「オルガン付き」や復興応援ソング「能登の翼」で合同演奏を行う。サン=サーンスは、「みんなで手を取り合って助け合っていくというメッセージ」(広上)として、前半を松井、後半を広上……と二人で振り分けるという。

松井「京都市ジュニアオーケストラの皆さんとはまだ1回もお会いしたことがなく、本番の前々日ぐらいから一緒に練習をスタートして、演奏会に臨みます。例えば、野球やサッカーなどのスポーツで、違うチームが一つになってわずか2日間で試合をするというのは難しいかもしれません。ですが、オーケストラとは不思議なもので、これまで互いに話したことさえなかった子どもたちが、音楽の力を借りることで、心を通わせ合うことができるのです。
 震災の後、私たちは実は2週間後から音楽堂での練習を再開したのですが、その時はさすがに参加することが難しいメンバーも多いのではないか、と思っていました。ところが、『みんなで集まって音楽がしたいから』と、避難を余儀なくされていた子どもたちも集まって、演奏することができました。その際の“とにかく音楽に救いを求めていた”感覚は、今でも鮮明に思い出せます。
 被災地に住んでいた、あるいは親戚や友人など周囲の人が被害に遭った子どもたちもいて、今でも本当の意味で喜びを表現する、というのはやはり難しい状況にあります。ですが、暗いところから始まりながらも最後は歓喜へと至るサン=サーンスの3番を通して、京都の皆さんとともに音楽を作り上げていきたいと思います」

©京都コンサートホール

 合同演奏会の翌日、3月23日には、広上および京都市ジュニアオーケストラの有志が、災害により甚大な被害を受けた珠洲市を訪問。小学校や仮設住宅団地の集会所など計5箇所で、約30分程度のアンサンブルコンサートを行う。

広上「コロナ禍で“不要不急”という言葉が流行り、私たち音楽文化に携わる人間がその枠の中に入れられる風潮がこの国で起きたことは、嘆くべき記憶として今も残っています。この未曾有の事態が過ぎ去って、ようやく少し賑わいが戻ってきた矢先に、今度はこの能登半島地震・豪雨が襲いました。まだ生傷が癒えない時期、初めてOEKのメンバーと被災地に向かった際には、受け入れてもらえるか正直不安な気持ちもありました。ところが、体育館や病院、駅前などありとあらゆるところでゲリラ的に演奏を届ける中で、『ほんの一瞬でも、幸せな気持ちになりました』『本当にこの時間が待ち遠しかった。また来てください』といった言葉をいただいたのです。お医者さんのように人命を救うことはなかなかできなくても、心の飢えを癒やすことはできる。『我々のやっている仕事にもっと誇りを持っていい』、そういうふうに思えました。
 ですので、私の人生と深い縁がある京都のまちのジュニアオーケストラのメンバーから、『何かできないか』という言葉が出たということを聞いたときは、涙が出るほど嬉しくなりました。石川県ジュニアオーケストラの皆さんとともに行う今回のプロジェクトを通じて、被災地の人々の心の中に何かを残すことができたら、文化を通した復興の素晴らしい成功例になるのではないかと思います」

©京都コンサートホール

 本会見最後に行われたセレモニーでは、クラウドファンディングで集まった支援金の一部が、被災地の子どもたちの音楽活動に対する寄付金として石川県音楽文化振興事業団に贈呈された。若い世代のひたむきな想いから始まった本プロジェクト。そこで実を結んだ音楽が、石川の人々の心と響き合い、復興の歩みを支える力になることを願いたい。

寄付金贈呈のセレモニーより
©京都コンサートホール

文:編集部
写真提供:京都コンサートホール


石川県ジュニアオーケストラ 第32回定期演奏会
~石川県ジュニアオーケストラ&京都市ジュニアオーケストラ 合同公演~

2026.3/22(日)14:00 石川県立音楽堂 コンサートホール

♪指揮
広上淳一(京都コンサートホール ミュージックアドバイザー、
     オーケストラ・アンサンブル金沢 アーティスティック・リーダー、
     元・京都市ジュニアオーケストラ スーパーヴァイザー)
松井慶太(オーケストラ・アンサンブル金沢 パーマネント・コンダクター、
     石川県ジュニアオーケストラ指揮者)
東尾多聞(京都市ジュニアオーケストラ合奏指導者)
♪出演
石川県ジュニアオーケストラ(72名)
京都市ジュニアオーケストラ(56名予定)ほか
♪曲目
コダーイ:組曲「ハーリ・ヤーノシュ」(石川単独ステージ指揮:松井慶太)
ドヴォルザーク:序曲「謝肉祭」(京都単独ステージ指揮:東尾多聞)
サン=サーンス:交響曲第3番 ハ短調 op.78「オルガン付き」
椿れい(作詞)・渡辺俊幸(作曲):能登の翼
(合同ステージ指揮:松井慶太、広上淳一)

入場無料・要整理券
※入場整理券は石川県立音楽堂チケットボックスにて、1月頃より配布予定。

能登半島被災地訪問コンサート

2026.3/23(月)11:00、14:00
珠洲市立みさき小学校、珠洲市健康増進センター宝立第2団地集会所 、すずなり食堂、狼煙のみんなの家

♪出演
広上淳一、京都市ジュニアオーケストラ有志
♪内容
楽器紹介を含めた約30分のアンサンブルコンサート

https://www.kyotoconcerthall.org/juniororchestra/