
近年、世界の第一線で活躍する日本人ソリストが増えたが、とりわけチェロは超激戦区といっていい。1998年生まれの水野優也もそのひとりだ。
TOPPANホールの企画公演では、これまで3度出演。今年5月には、周防亮介とトーマス・ヘルとの共演でショスタコーヴィチのピアノ三重奏曲を伸びやかに弾いていたのが印象的だった。その水野がこのホールのランチタイムコンサートに登場。彼にとって「人生初のオール無伴奏」となるリサイタルで、3曲を取り上げる。
名チェリストとしても知られたカサドによる、無伴奏チェロ組曲。さすがチェロの歌わせ方を熟知した作曲家ならではの作品だ。
若きチェリストたちは、留学先にハンガリーを選ぶことが増えてきた。水野もハンガリー・リスト・フェレンツ音楽大学にてミクローシュ・ペレーニに師事した経験をもつ。その成果を生かすべく、ハンガリーの作曲家の2作品を演奏する。
ロージャ(ミクロス・ローザ)は、ハンガリー生まれで渡米後に映画音楽の大家となった。ハリウッドでの活躍の合間に書かれた「トッカータ・カプリチオーザ」は、その後に演奏するコダーイのソナタへのオマージュとしての側面ももつ。
そして、チェリストにとってすでに古典となったコダーイの無伴奏チェロ・ソナタ。高度な技巧によってチェロという楽器を響きの面で拡大させ、民族的な情感を湛えた作品だ。水野の安定したテクニックから生まれる幅広い表現に期待したい。
文:鈴木淳史
(ぶらあぼ2025年11月号より)
ランチタイムコンサート Vol.137 特別企画 水野優也(チェロ)
2025.12/2(火)12:15 TOPPANホール
問:TOPPANホールチケットセンター03-5840-2222
https://www.toppanhall.com

鈴木淳史 Atsufumi Suzuki
雑文家/音楽批評。1970年山形県寒河江市生まれ。著書に『クラシック悪魔の辞典』『背徳のクラシック・ガイド』『愛と幻想のクラシック』『占いの力』(以上、洋泉社) 『「電車男」は誰なのか』(中央公論新社)『チラシで楽しむクラシック』(双葉社)『クラシックは斜めに聴け!』(青弓社)ほか。共著に『村上春樹の100曲』(立東舎)などがある。
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