
小堀勇介 ©T.Tairadate/大沼 徹
「第九」の季節がやってくる。各楽団が多くの公演を予定しているが、東京シティ・フィルは楽団主催公演としては、毎年1回しか「第九」演奏会を開催していない。創立50周年を迎えた今年もその姿勢は変わらず、常任指揮者の高関健が指揮台に立ち、“一回入魂”の「第九」に懸ける。
とはいえ、このコンビの年間スケジュールを俯瞰すると、違う位置付けもみえてくる。今年度の高関と東京シティ・フィルは、記念年にふさわしい大曲を連続している。「春の祭典」、オペラ《ドン・カルロ》、「トゥーランガリラ交響曲」、年明けにはマーラーの「悲劇的」と「復活」。どれひとつ取っても“勝負曲”というべき規模と内容をもつ大作ばかりだ。「第九」がこのラインナップの真ん中にあると見なせば、意味合いも変わってはこないだろうか。少なくとも、ただの年末の風物詩に留まらず、音楽史を変えた記念碑的重要作という視点を、改めて思い出せる契機にはなりそうだ。
演奏面でも、毎回スコアをゼロから読み直し、分析を詳細に行う高関が、いまどのようなベートーヴェン像を提示するのか。緻密さと情熱にあふれる、清新な「第九」が実現するはず。ソリストはソプラノ中江早希、メゾソプラノ相田麻純、テノール小堀勇介、バリトン大沼徹。人気と実力を備え、本作の各パートのキャラクターにも合った4人がそろう。そして、今年大活躍の東京シティ・フィル・コーア(合唱指揮:藤丸崇浩)が、渾身の合唱で「第九」のメッセージを歌い上げる。
文:林 昌英
(ぶらあぼ2025年10月号より)
高関 健(指揮) 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 第九特別演奏会 2025
2025.12/28(日)15:00 東京文化会館
問:東京シティ・フィル チケットサービス03-5624-4002
https://www.cityphil.jp

林 昌英 Masahide Hayashi
出版社勤務を経て、音楽誌制作と執筆に携わり、現在はフリーライターとして活動。「ぶらあぼ」等の音楽誌、Webメディア、コンサートプログラム等に記事を寄稿。オーケストラと室内楽(主に弦楽四重奏)を中心に執筆・取材を重ねる。40代で桐朋学園大学カレッジ・ディプロマ・コース音楽学専攻に学び、2020年修了、研究テーマはショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲。アマチュア弦楽器奏者として、ショスタコーヴィチの交響曲と弦楽四重奏曲の両全曲演奏を達成。


