円熟のバリトン・大嶺光洋が日本歌曲で伝える和のこころ

左:大嶺光洋 ©Nomura Sakiko
右:宮崎芳弥

 様々な社会人経験を積みながら鍛錬を重ね、歌にひたむきな愛情を注ぎ続けてきたバリトンの大嶺光洋。深い響きのあたたかい声と言葉を大切に紡いでいく歌唱によって多くの日本歌曲を歌い、その普及に努めてきた。これまでにリリースされた3枚のCDは彼の芸術が結実したものであり、今回のリサイタルはそれらの集大成といえる内容だ。

 山田耕筰の〈からたちの花〉で幕を開け、信時潔や橋本國彦、平井康三郎に木下牧子の作品など、いま聴くべき名曲が並ぶ。それらが描き出す美しい情景や人間の繊細な心の動きを存分に味わうことができるだろう。日本歌曲を知ることは、日本の文化そのものに触れるということにもつながる。グローバル化が進み、錯綜する情報に溺れてしまいがちな現代だからこそ、これらの作品を通して我が国が大切に育んできた文化と美に触れることが必要だ。大嶺の音楽を支え続けてきたピアノの宮崎芳弥の演奏、國分明子による朗読も演奏会をさらに充実の時間へと導いていく。

文:長井進之介

(ぶらあぼ2025年10月号より)

大嶺光洋バリトンリサイタル ~たどり着いた日本歌曲の表現~
2025.11/18(火)19:00 Hakuju Hall
問:ビーフラット・ミュージックプロデュース03-6908-8977
https://www.bflat-mp.com


長井進之介 Shinnosuke Nagai

国立音楽大学大学院修士課程器楽専攻(伴奏)修了を経て、同大学院博士後期課程音楽学領域単位取得。在学中、カールスルーエ音楽大学に交換留学。アンサンブルを中心にコンサートやレコーディングを行っており、2007年度〈柴田南雄音楽評論賞〉奨励賞受賞(史上最年少)を機に音楽ライターとして活動を開始。現在、群馬大学共同教育学部音楽教育講座非常勤講師、国立音楽大学大学院伴奏助手、インターネットラジオ「OTTAVA」プレゼンターも務める。
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