
多彩な楽器のトップ奏者たちをフィーチャーした「無伴奏の世界」の第4回は、今やベテランとして日本のヴィオラ界をけん引する川本嘉子。このシリーズはバッハが必ずプログラミングされてきたが、川本は無伴奏チェロ組曲のヴィオラ版第1、2、6番に邦人作曲家の作品を挟み込んだ。
まずは細川俊夫が編曲した「私を泣かせてください」(ヘンデル)。誰もが知るあの端正な旋律がフラジオレット奏法によって異界へと解き放たれる。西村朗「『鳥の歌』による幻想曲」では、切なさを湛えたメロディがアジア的ともいうべき苦悶の表情を帯びる。権代敦彦の「テロス」はユーリ・バシュメット国際ヴィオラコンクールの課題曲として書かれた。
川本が同時代の創作として親しんできた作曲家たちの小品—それもバロックの編曲から始まる—をいわばスパイスのように配置しながら、弦の奏者にとっての聖典とも言うべきバッハの無伴奏組曲に正面から取り組む。時空を自在に飛び越える名手ならではの旅路が楽しめるだろう。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2025年9月号より)
第4回 無伴奏の世界 川本嘉子(ヴィオラ)
2025.9/18(木)19:00 浜離宮朝日ホール
問:ミリオンコンサート協会03-3501-5638
http://www.millionconcert.co.jp

