第49回ピティナ・ピアノコンペティション特級の審査が8月22日、サントリーホール 大ホールで行われ、稲沢朋華がグランプリに選ばれた。特級はさまざまなカテゴリーを有するピティナ・ピアノコンペティションの最上位にあたり、国際コンクールへの登竜門としても、近年注目が高まっている。稲沢は、ファイナルの来場者の投票による聴衆賞、YouTubeライブ配信の視聴者による投票によって決まるオンライン聴衆賞もW受賞した。

◎第49回ピティナ・ピアノコンペティション特級
グランプリ 稲沢朋華(香川県出身 桐朋学園大学4年)
銀賞 津野絢音(東京都出身 東京音楽大学4年)
銅賞 加藤皓介(東京都出身 桐朋学園大学1年)
入選 高見真智人(愛知県出身 東京音楽大学大学院1年)
聴衆賞・オンライン聴衆賞 稲沢朋華

1次予選〜3次予選、セミファイナルを経て、この日のステージに立ったのは4名。チケットが完売になるなど、例年にも増して多くの聴衆が見つめるなか、大井剛史指揮の東京シティ・フィルとの共演で協奏曲を披露した。4人が大舞台でそれぞれ渾身のパフォーマンスで持ち味を出し切った姿が印象的だった。見事グランプリに輝いた稲沢は、独特の緊張感に満ちたベートーヴェンの協奏曲第3番で、楽章ごとのコントラストを明確に描き分け、緩徐楽章ではセミファイナルのシューベルトのソナタでも見せた歌心あふれる繊細な情感を聴かせた。オーケストラと初共演であること感じさせない完成度の高さが審査結果と聴衆賞の受賞につながった。
稲沢は香川県三豊市出身。香川県立坂出高校音楽科を経て、現在は桐朋学園大学音楽学部4年に在籍。これまでにピアノを原千種、斎藤京子、山本美穂、有吉亮治の各氏に師事している。表彰式のあとに行われた記者会見では、グランプリ受賞の喜びを語った。
「準備してきた曲をすべて演奏することができ、さらに今日は満席のお客様の前で演奏させていただき、人生で一番濃くて幸せな日だったなと感じています。結果よりも、演奏に自分がすごく納得ができたのが一番うれしかったし、お客様にも届いたかなという実感がありました」

この日の会見には、昨年グランプリの南杏佳も同席していたが、稲沢は1年前に南のステージを見て大いに刺激を受け、今回の特級挑戦に至ったという。しかし、昨年受けたPre特級とは「体力的にも精神的にも比べ物にならないくらい大変だった」と素直な感想も。
セミファイナルのメインとして演奏したシューベルトのピアノ・ソナタ第21番と、ファイナルで演奏したベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番を選択したのには、二人の作曲家の関係性を強く意識したことが背景にあったようだ。
「私はまだ21歳なのですが、シューベルトの最後のソナタを、今の自分の人生と重ね合わせて、周りの方々への感謝や、自分が音楽を続けてこられたことのかけがえのなさを感じながら、特級で演奏したいなと思っていました。彼はベートーヴェンのことを生涯特別に思っていたと言われています。勉強していくうちに、このパッセージはベートーヴェンへの敬意を表しているのではないか、と感じられる箇所があったり、ベートーヴェンのハ短調という調性―特に3楽章―と、(同じくハ短調で書かれた)シューベルトの第4楽章の曲調が、模倣したのかと思うほど似ていてメッセージ性が強い。ベートーヴェンのことを尊敬して大切に思っていたのではないかと思っています」
また、このソナタは「自分がいま見える世界よりももっと広いところに音楽があるんだな」と感じさせてくれた作品でもあったという。これまでにも、世界で活躍するピアニストを多く輩出してきた当コンペティション。稲沢が今回のグランプリ受賞を経て、今後どのような音楽家に成長していくのか、注目していきたい。
取材・文:編集部
クラウドファンディング
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