フォルテピアノ奏者・川口成彦が知られざる女性作曲家たちに光をあてる

©Fumitaka Saito

 多種多様なフォルテピアノや現代ピアノ、ミニピアノを弾き、演奏会やCDでユニークな企画を次々繰り出す川口成彦。王子ホールでの「女性作曲家への憧れ」全3回シリーズも期待大だ。男性中心の西洋音楽史において抑圧され埋もれていた女性作曲家にスポットを当てる企画で、第1回は「バロックから古典派へ」。

 登場する女性作曲家は4人。バロック期のパリで活躍し、フランスで最初期のクラヴサン曲集を出版したエリザベト=クロード・ジャケ=ド=ラ=ゲール(1665〜1729)。ウィーンを舞台にマリア・テレジアやメタスタージオとも交流したマリアンネ・マルティネス(1744〜1812)。イギリスでピアニスト、作曲家、教育者として名声を博したマリア・ヘスター・パーク(1760〜1813)。そしてフランス革命による処刑の危機を音楽の才で乗り越えたエレーヌ=アントワネット=マリー・ド・モンジュルー(1764〜1836)。ジャケ=ド=ラ=ゲール以外は知られざる存在だが、選ばれた作品の質の高さと各々の個性と感性の輝きは、組み合わされたヘンデルやハイドンと並んでも遜色ない。ちなみにハイドンはマルティネスやパークと接点があった。

 使用楽器にも注目だ。一台はポルトガルの初期フォルテピアノ、1767年製の「アントゥーネス」の久保田彰による復元。もう一台は1795年頃のワルター製作、クリス・マーネ復元のフォルテピアノ。現代ピアノとはまったく異なる新鮮な音色を駆使し、女性作曲家たちの真価を再認識させてくれるに違いない。

文:矢澤孝樹

(ぶらあぼ2025年7月号より)

銀座ぶらっとプレミアム #209 川口成彦(フォルテピアノ) 「女性作曲家への憧れ」第1回
2025.8/28(木)13:30 王子ホール
問:王子ホールチケットセンター03-3567-9990  
https://www.ojihall.jp


矢澤孝樹 Takaki Yazawa

1969年山梨県塩山市(現・甲州市)生。慶應義塾大学文学部卒。水戸芸術館音楽部門主任学芸員を経て現在ニューロン製菓(株)及び(株)アンデ代表取締役社長。並行して音楽評論活動を行い、『レコード芸術online』『音楽の友』『モーストリークラシック』『ぶらあぼ』『CDジャーナル』にレギュラー執筆。朝日新聞クラシックCD評選者および執筆者。CD及び演奏会解説多数。著書に『マタイ受難曲』(音楽之友社)。ほか共著多数。