
恋わずらい、お馬鹿さん、官吏、貧者という心の病(?)を抱えている人たちが病院(オスペダーレ)にやってくるが、金の亡者の医者はでたらめな処方でしたり顔。鈴木美登里の主宰する声楽アンサンブル「ラ・フォンテヴェルデ」が2年前にHakuju Hallで日本初演した17世紀の音楽風刺劇《オスペダーレ》だ。イタリア語の独唱と多声の重唱からなる娯楽作品マドリガル・コメディで、6人の歌手と1人の役者のノリノリの歌と演技で会場が大いに盛り上がった。コンサートでこれほど笑ったのも久し振りだが、聴き逃した人に朗報、7月にKOBE国際音楽祭で再演されるのだ。
「私たちも、こんなに会場から笑いが起こるとは予想外でした。当時のマドリガルは音楽が中心なので演技は各人に任せていたのですが、お客さまのリアクションに触発されてほとんどがアドリブでした。長年真面目な歌を歌ってきましたが、『私たちはコミカルなものも出来るんだ』って思いましたね(笑)」
《オスペダーレ》は台本作者のみ知られ、作曲者など不明な点が多いミステリアスな作品でもある。ロンドン在住の音楽学者・松本直美氏がヴェネツィアの図書館で発見して20年の歳月をかけて研究。2022年に現代譜を出版するとともにロンドンで世界初演された。コンサートの前半に行われた松本氏の解説がたいへん興味深く、音楽劇の楽しみが倍増した。イタリア語の原語上演で字幕スーパー付き。松本氏のすばらしい日本語訳と口上役の俳優・新太シュンの見事な演技もあって、とても350年前の話とは思えない。
「こうしたマドリガル・コメディはオペラの前身にあたりますが、通常のオペラと違って上演時間は一時間程度とコンパクトですし、話も音楽もバランスがとれていてわかりやすい。ストーリーに起承転結があり、登場人物の一人ひとりに独唱と重唱が割り当てられ、キャラクターが浮き出るように書かれています。器楽もチェロ(鈴木秀美)とバロック・ハープ(伊藤美恵)とチェンバロ(上尾直毅)の通奏低音だけなのに響きに広がりがあります」
第11回神戸国際フルートコンクールを核とするKOBE国際音楽祭2025は、7月半ばから2ヵ月間で100公演。フルートのエマニュエル・パユなど国内外のトッププレイヤーらが出演し、ホールや街角に音楽が響きわたる。
「神戸は私が生まれヨーロッパに留学するまでを過ごした特別な場所です。想い出深いこの町で、現在の活動の中心であるラ・フォンテヴェルデとともにこの作品を上演できるのは本当に嬉しい。メンバーもお客さまにもっと笑ってもらおうと張り切っています」
取材・文:那須田 務
(ぶらあぼ2025年7月号より)
KOBE国際音楽祭2025
音楽風刺劇《オスペダーレ》(演奏会形式/イタリア語上演・字幕付き)
2025.7/26(土)14:00 神戸新聞松方ホール
問:神戸市民文化振興財団078-361-7930
https://www.kobe-bunka.jp/ongakusai/