演出家ロラン・ペリーがセイジ・オザワ 松本フェスティバルのブリテン《夏の夜の夢》で沖澤のどかとタッグ!

Laurent Pelly
演出

 フランス演劇界の「最先端をひた走る」ロラン・ペリーは、欧米各国で大活躍の多忙な演出家であり、来日経験も多いアーティスト。オンラインでのインタビューの折、「実は、フランス国外で初めて仕事をさせてもらったのが、小澤征爾さんとのオペラでした。2003年の小澤征爾オペラ・プロジェクト(横須賀)でのことです。マエストロはいつも、ステージ上のシーンとご自身を一体化される方でした。出演者だけが観るモニター画面に映る、それは表情豊かな指揮ぶりが懐かしいです」と微笑みながら、抱負を詳しく語ってくれた。

 「この夏、セイジ・オザワ 松本フェスティバル(OMF)で上演されるブリテンの歌劇《夏の夜の夢》を演出するため、久しぶりに日本に伺います。原作はもちろんシェイクスピアの戯曲ですね。私も演劇の方を2度演出してからブリテンのオペラに取り組んだのですが、本作で特別なのは、シェイクスピアのテキストを、一部カットしながらも、基本的にそのまま使っていることでしょう。幻想的であり、ユーモラスであり、ときに少し切なかったりと、さまざまな雰囲気を巧みに行き来する作品ですよ」

 その淀みのない口調からも、演出家ペリーがこのオペラに心底惚れこんでいる様子は露わである。

 「物語は、古代ギリシャの森の中で、3つの世界が交差するという喜劇です。妖精たちの魔法の世界、王様や恋人たちの世界、そして職人たちの現実的な世界がそれぞれ交錯しながら、『人の欲望とはなんとミステリアスなものなのか』と語り合う大変楽しい作品です。原作が書かれた16世紀末という時代を考えると、作品の構造としても概念としても非常にモダンなものですね。オペラでも、それこそモダンで涼やかな音楽が理解を助けてくれますし、作曲家ブリテンも原作者シェイクスピアも、我々に『世界や人はこんなにも複雑で多面的なんだよ』と語りかけてくれます。今回のプロダクションは、ヨーロッパで既に上演したものですが、その時にも演出しながら思いました。『なぜ人は誰かを欲するんだろう? なぜその誰かを好きになるのだろう? そして、なぜ、その誰かを突然、好きではなくなってしまうのか?』と。こういった、人と人との不思議な化学反応が起きてしまうとき、ひょっとしたら、我々の頭の中で、妖精パックが悪戯を仕掛けてきているのかもしれません」

 ところで、オペラ《夏の夜の夢》というと、児童合唱団が出ることでも人気の作品だが、演出家にとって「子どもたち」とはどのような存在なのだろう?

 「手ごわいです(笑)。子どもたちの視線にはフィルターがかかっていないでしょう。《夏の夜の夢》では児童合唱が妖精たちを演じますが、彼らを率いる妖精王オーベロンと妖精の女王タイターニアも含めて、今回の舞台では、妖精が『闇からいきなり現れる』感じで描くべく、舞台装置や照明に工夫を凝らしました。空間の中に人体を置くといった感じで演出しますので、開幕冒頭のオーベロンとタイターニアの二重唱も、二人が空中に浮かんでいるかのように表現します。魔法がかったような効果を狙ってのことですが、これはまた、客席の皆さまにも『自分がどこにいるのか分からず迷う』という境地を体験していただきたいからでもあるのです。鏡面や音響、照明を使ってミステリアスな世界を表現しながら、皆さまにもドラマに浸っていただければ幸いです」

 最後に、改めて公演への期待を。

 「オペラ《夏の夜の夢》を初めてご覧になる方には、舞台にとにかく身を任せて、楽しんでみてくださいと申し上げたいです。登場人物たちが爽やかに語り掛けるような歌がまずは心地よいですし、音楽の端々にもサプライズの瞬間がちりばめられているといった名作オペラです。私自身もひさびさの日本をとても楽しみにしていますし、優れた指揮者である沖澤のどかさんとの共同作業にも心から期待しています。前回のOMFの《フィガロの結婚》のビデオを拝見して、本当に良いお仕事をされる方だと感嘆しました!」

 この夏はオペラ・ファンが松本に集う! 鬼才ロラン・ペリーと新星沖澤のどかが、名作オペラの新境地を拓くさまをどうぞお楽しみに!

取材・文:岸 純信(オペラ研究家)
(ぶらあぼ2025年7月号より)

2025セイジ・オザワ 松本フェスティバル
2025.8/11(月・祝)〜9/9(火)
キッセイ文化ホール(長野県松本文化会館)、まつもと市民芸術館、松本市音楽文化ホール(ザ・ハーモニーホール) 他


●オペラ ブリテン:《夏の夜の夢》全3幕  
2025.8/17(日)15:00、8/20(水)17:00、8/24(日)15:00 まつもと市民芸術館・主ホール
●オーケストラ コンサート Aプログラム 
2025.8/23(土)15:00 キッセイ文化ホール(長野県松本文化会館)

●オーケストラ コンサート Bプログラム ─小澤征爾生誕90年を祝う─
2025.8/30(土)、8/31(日)各日15:00 キッセイ文化ホール(長野県松本文化会館)


問:セイジ・オザワ 松本フェスティバル実行委員会0263-39-0001
https://www.ozawa-festival.com

印はペリー演出公演。フェスティバルの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。



岸 純信 Suminobu Kishi

オペラ研究家。『ぶらあぼ』ほか音楽雑誌&公演プログラムに寄稿、CD&DVD解説多数。NHK Eテレ『らららクラシック』、NHK-FM『オペラファンタスティカ』に出演多し。著書『オペラは手ごわい』(春秋社)、『オペラのひみつ』(メイツ出版)、訳書『ワーグナーとロッシーニ』『作曲家ビュッセル回想録』『歌の女神と学者たち 上巻』(八千代出版)など。大阪大学非常勤講師(オペラ史)。新国立劇場オペラ専門委員など歴任。