
Eva Gevorgyan
ピアノ
私の新たな発見と成長を聴いてほしい
豊かな歌心と鉄壁のテクニック、チャレンジを恐れないタフな精神……エヴァ・ゲヴォルギヤンはまさに大器を予感させるピアニストだ。2021年の第18回ショパン国際ピアノコンクールにおいて最年少ファイナリストに選ばれたときの、17歳とは思えない演奏に驚いた方も多いことだろう。
2023年の初来日に続き、24年も浜離宮朝日ホールでリサイタルを開催し、今年7月31日が同ホールでの3度目、そして8月の神戸朝日ホールは2度目のリサイタルとなる。プログラムはショパン、シューマン、ラフマニノフ。
「私にとって浜離宮朝日ホールは特別な意味をもつホールです。初来日のときから弾いているショパンを今回もプログラムに入れましたが、私の新たな発見と成長をお聴きいただけたら嬉しいです。シューマンはショパンから多くのインスピレーションを受けた作曲家で、とくに『謝肉祭』には〈ショパン〉という曲も入っているほど。そして時代が下り、後期ロマン派を継承したラフマニノフ。この3人の作曲家をひとつの流れのなかで演奏できたらと思いました」
昨年のインタビューで「マヨルカ島に行きたい」と語っていたが、実際に足を運んで感銘を受けたという。
「ショパンの手紙や前奏曲集を作曲したピアノなどを通して、彼の存在をあらゆるところに感じられる、本当にマジカルな場所でした。マヨルカ島で体感したことは、私の解釈にも影響を与えたと思います」
同郷のラフマニノフの作品からは、ロシア的な歌と故郷への想いを強く感じると語る。
「ラフマニノフは非常にシリアスな人物で、ショー的な要素を嫌い、つねに深遠なる世界を求めていました。それと深い故郷への愛が、どの作品からも感じられます。私自身、ラフマニノフの作品ではロシア的なモチーフを歌うように弾いています。モスクワ音楽院では歌曲の伴奏を徹底して学ぶクラスがあって、声楽家と一緒に音楽を作っていく経験はとても大きな糧となりました。ハンマーが弦を叩いて音が出るピアノは、ある意味、歌わせるのがもっとも難しい楽器のひとつだと思います。私はその楽器で、あえて歌うことを大事にしたいのです」
ヴィオラ奏者の母のもとに生まれたゲヴォルギヤンにとって、音楽家を志すことはごく自然なことだった。
「赤ちゃんのときから、母は私を連れてリハーサルに行っていたので、あらゆる音楽を聴いて育ちました。バレエも習っていましたが、やはり音楽をやりたいと思い、ヴァイオリンを買ってもらいました。でも夢中になりすぎてすぐに壊してしまって……。『じゃあピアノをやる?』と聞かれ、私は音楽さえできれば嬉しかったので、ピアノをやることにしたのです」
モスクワ音楽院では名教師、ナタリア・トゥルルのもとで研鑽を積んできた。
「ナタリア先生は音楽のことだけでなく、ピアニストとしてどんな服装をしたらよいのか、どんなふうにまわりの方々とお話ししたらよいのかといったことまで、こまやかに教えてくださいました。私にとっては、ふたりめのお母さんのような存在です。たしかに厳しい指導で有名ですが、何事かを達成したいならば頑張るしかないと私は思っています」
現在はモスクワ音楽院に在籍しながら、スペインのソフィア王妃高等音楽院でスタニスラフ・ユデニッチにも師事している。
「ユデニッチ先生は演奏活動でもお忙しいので、2〜3ヵ月に1度ぐらいしかお会いできないんです。ですからレッスンというより、音楽家同士でディスカッションをするような感じで学んでいます。とても有意義な時間ですね」
世界各地からオーケストラとの共演やリサイタルに引っ張りだこのゲヴォルギヤン。どのような展望を思い描いているのだろうか。
「ピアニストにとって基本となるバッハとベートーヴェンをしっかり学びつつ、毎年新しい作品に挑戦して、幅広くいろいろな音楽を吸収していきたいと思っています。今はそうやって多くのステージを経験し、レパートリーを増やしていくフェーズだと思っています」
ゲヴォルギヤンの「今」を逃さず聴いておきたい。
取材・文:原 典子
(ぶらあぼ2025年7月号より)
エヴァ・ゲヴォルギヤン ピアノ・リサイタル
2025.7/31(木)19:00 浜離宮朝日ホール
8/3(日)14:00 神戸朝日ホール
曲目/ショパン:幻想曲 op.49、ワルツ第3番 op.34-2、同第7番 op.64-2、
練習曲集 op.10より第3番「別れの曲」~第6番、第11番、第12番「革命」
シューマン:謝肉祭 op.9
ラフマニノフ:練習曲集「音の絵」op.39より第1曲~第3曲、第6曲、第9曲
問:朝日ホール・チケットセンター03-3267-9990(7/31)
https://www.asahi-hall.jp/hamarikyu/
フェスティバルホール チケットセンター06-6231-2221(8/3)
https://www.kobe-asahihall.jp