草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティヴァル、今年のテーマはJ.シュトラウスⅡ世&サリエリ!

メモリアルイヤーが交わる二人の〈S〉――旅行の合間に楽しめる新企画「森の音楽会」も

 今年は「ワルツ王」として名高い、ヨハン・シュトラウスⅡ世(1825‐99)の生誕200年。彼が活躍したウィーンの演奏家や作曲家をフィーチャーしてきた草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティヴァルも、当然ながらその作品を取り上げる。しかもシュトラウスⅡ世の代名詞である、ワルツやポルカだけが演奏されるのではない。彼がダンス音楽家としてデビューする直前、いわば修業時代に書いた宗教音楽にもあらためて光を当てようというのが、これまでも名曲のみならず秘曲も取り上げてきた草津ならではの姿勢。

 そして今年はもう1人、記念年を迎える音楽史上の重要人物がいる。没後200年を迎えるアントニオ・サリエリ(1750‐1825)だ。サリエリといえば、戯曲や映画『アマデウス』等を通じ、“モーツァルトに嫉妬した凡庸な音楽家”というイメージが定着しているが、それは完全な間違いである。そんなサリエリの真実を、彼が遺した数々の曲によって検証しようというのも、本アカデミー&フェスティヴァルの狙いに他ならない。

 これらのことを受けて、今年の草津のメインテーマは、「ウィーンを繋ぐ二人の〈S〉」と決まった。ここでの〈S〉とは、サリエリ(Salieri)とシュトラウス(Strauss)の名前の、頭文字である。

画:西村繁男
王道の傑作から日本初演の秘曲まで、ここでしか聴けないプログラム!

8/22(金):シェーンベルク邸のJ.シュトラウス――世紀末ウィーンとワルツの出会い

 シェーンベルクというと、西洋音楽の伝統的な調性を破壊したり、12音技法を確立したりと、20世紀音楽をリードしたコワモテなイメージがある。だが彼はシュトラウスのダンス音楽にも強い興味を示し、弟子であったベルクやウェーベルンとともに、室内楽用の編曲版を書いた。それらを聴くと、単に楽し気なイメージで捉えられがちなシュトラウスⅡ世の作品に潜む皮肉や頽廃、さらには前衛性まで聴きとれる。

 ウィーンを本拠地とし、世代こそ違えどこの街に立ち込める19世紀末の風をともに浴びたシュトラウスとシェーンベルク (Schönberg)。ここに、今年のテーマをさらに豊かにするもう一人の〈S〉が加わる。

J.シュトラウスⅡ世とシェーンベルク

8/23(土):サリエリとベートーヴェンの絆

 ウィーンに生まれ、この街を中心に活躍するアダム姉妹。姉のヴァイオリニスト、カリーン・アダムはこれまでも草津の常連だが、そこに今回は初登場となる妹のピアニスト、ドリス・アダムが加わり、姉妹による演奏会が催される。取り上げる曲目も、ウィーン縁の彼女たちの真価が遺憾なく発揮されるに違いない、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタの数々だ。

 しかも、一見するとベートーヴェンの作品ばかり並べているようでありながら、実は今年のテーマが隠し味として利いている。ウィーンに出てきた若き日のベートーヴェンは、サリエリにも師事した結果、演奏会の最初に取り上げられるヴァイオリン・ソナタ 作品12-1を彼に捧げた。そこからもサリエリが『アマデウス』のイメージとは異なり、ウィーン音楽界においていかに重鎮であり、いかに人々から慕われていたかが分かる。

カリーン・アダム& ドリス・アダム ©Max Dobrovich

8/24(日):合唱とオーケストラ――声が描く二人の〈S〉の肖像

 草津の名物演奏会の1つである合唱とオーケストラの回。今年は数曲の管弦楽作品とならび、冒頭にも触れた、シュトラウスの宗教音楽(「全世界を統べる者よ」)をはじめ、サリエリの宗教曲、さらには彼が知人の誕生日を祝って書いた世俗カンタータ(「誕生日カンタータ」)が取り上げられる。

 とりわけ「誕生日カンタータ」は、個人的な性格の強い作品であるため、上演の際に用いられた手書きのスコアを基に、今回の演奏会のために特別に校訂された楽譜が用いられるという鳴り物入り。もちろんこれまでに録音が存在したこともなく、草津に行かなければ体験できないサリエリの作曲家としての非凡さのみならず、温かい人柄を再確認できる、千載一遇のチャンスである。

昨年の合唱・オーケストラコンサートの様子 ©友澤綾乃

8/21(木)&8/25(月):森の音楽会

 今年の草津が放つ、新たなスタイルの演奏会。日常生活から切り離された土地の特徴を最大限活かしながら、普段の「クラシック音楽」から自由になって音楽に触れましょう…という発想を基に始まった新企画である。

 「クラシック音楽」のイメージにありがちな、“堅苦しさや深刻さ一辺倒”から音楽を解き放ち、初めての聴き手でも気軽に楽しめるプログラムばかり。サリエリが書いた超レアもののユーモア音楽等まで登場して、クラシック音楽通も満足できる内容となっている。さらに朝のモーニングコンサートと夕のショートコンサートが合計2日という構成で、それぞれプログラムが全く異なっているうえ安価で時間も短く、旅行の空き時間にも組み込みやすい。もちろん、出演者も草津の誇るアーティストばかりが揃ったお得な演奏会だ。

毎公演恒例のアンプホルン演奏 ©友澤綾乃
名匠によるレッスンを間近で体感!「アカデミー」にも注目

 ついついコンサート(フェスティヴァル)に目が向きがちだが、それだけでは勿体ない。そもそもこの催しが誕生したのも、国内外の一流演奏家を講師に迎え、都会の喧騒から離れて集中的に音楽を学ぶアカデミーが開催されたことがきっかけ。やがて、講師陣の演奏も聴きたいという声に応える形で、演奏会も開かれることになったという経緯がある。というわけで今年も、先述したアダム姉妹も含め、シュロモ・ミンツ(ヴァイオリン)やエンリコ・ブロンツィ(チェロ)ら草津ではおなじみの海外の名演奏家が講師陣として、ずらりと名を連ねている。

エンリコ・ブロンツィによるレッスンの様子 ©友澤綾乃

 受講生としてアカデミーに参加し、彼らの薫陶をみっちり受けるもよし。あるいはビジターであっても、公開レッスンを見学することができるため、普段は舞台で接している演奏家が教育者としてどのようなことを伝えようとしているのかを目で耳で確かめるもよし。様々な楽しみ方で、「アカデミー」と「フェスティヴァル」の両輪が味わえる。

 なお公開レッスンの一環として、講演会(8/24)が開催されるのも、「アカデミー」だからこそ可能なこと。音楽顧問を務める世界的な音楽学者オットー・ビーバが、今年の草津のテーマを深掘りするとともに、この後におこなわれる「オーケストラと合唱」で取り上げられる作品の魅力もたっぷりと説き起こしてくれるだろう。

オットー・ビーバ ©友澤綾乃

文:小宮正安


8/17(日)16:00 草津音楽の森国際コンサートホール
オープニング・コンサート

クリストフ・コンツ(指揮) 群馬交響楽団

8/18(月)16:00 草津音楽の森国際コンサートホール
シュロモ・ミンツ ヴァイオリン リサイタル

シュロモ・ミンツ(ヴァイオリン) 岡田博美(ピアノ)

8/19(火)16:00 草津音楽の森国際コンサートホール
J.シュトラウスとA.グリュンフェルト ~ワルツ王と名ピアニストの出会い~

カリーン・アダム(ヴァイオリン) ドリス・アダム(ピアノ)

8/19(火)20:00 御座湯 湯源之間(大広間)
湯あがりコンサートⅠ ~エンリコ・ブロンツィ~

詳細調整中

8/20(水)10:30 草津音楽の森国際コンサートホール
子どものためのコンサート

詳細調整中

8/20(水)16:00 草津音楽の森国際コンサートホール
クリストファー・ヒンターフーバー ピアノ・リサイタル

クリストファー・ヒンターフーバー(ピアノ)

8/20(水)20:00 御座湯 湯源之間(大広間)
湯あがりコンサートⅡ ~トーマス・インデアミューレ~

詳細調整中

8/21(木)11:00 草津音楽の森国際コンサートホール
森の音楽会 Vol.1/名曲の森

高木和弘 田中佑子(以上ヴァイオリン) 般若佳子(ヴィオラ) 大友肇(チェロ) 他

8/21(木)16:00 草津音楽の森国際コンサートホール
森の音楽会 Vol.2/エンリコ・ブロンツィ チェロ・リサイタル

エンリコ・ブロンツィ(チェロ) クリストファー・ヒンターフーバー(ピアノ)

8/22(金)16:00 草津音楽の森国際コンサートホール
シェーンベルク邸のJ.シュトラウス

カリーン・アダム 高木和弘(以上ヴァイオリン) 百武由紀 般若佳子(以上ヴィオラ) エンリコ・ブロンツィ 大友肇(以上チェロ) ドリス・アダム(ピアノ) 他

8/23(土)16:00 草津音楽の森国際コンサートホール
サリエリとベートーヴェンの絆

カリーン・アダム(ヴァイオリン) ドリス・アダム(ピアノ)

8/24(日)16:00 草津音楽の森国際コンサートホール
合唱とオーケストラ

カリーン・アダム(ヴァイオリン) トーマス・インデアミューレ(オーボエ) 矢崎彦太郎(指揮) 草津フェスティヴァル・オーケストラ
天羽明惠(ソプラノ) 日野妙果(アルト) 小貫岩夫(テノール) 大川博(バス) 横山琢哉(合唱指揮) 草津アカデミー合唱団 他

8/25(月)11:00 草津音楽の森国際コンサートホール
森の音楽会 Vol.3/「アマデウス」の虚実

天羽明惠(ソプラノ) 日野妙果(アルト) 小貫岩夫(テノール) 大川博(バス) 高木和弘(ヴァイオリン) 般若佳子(ヴィオラ) 大友肇(チェロ) 他

8/25(月)16:00 草津音楽の森国際コンサートホール
森の音楽会 Vol.4/音楽のユーモア

カリーン・アダム 嶋田慶子(以上ヴァイオリン) 般若佳子 百武由紀(以上ヴィオラ) 大友肇(チェロ) 天羽明惠(ソプラノ) 日野妙果(アルト) 小貫岩夫(テノール) 大川博(バス) 他

8/26(火)16:00 草津音楽の森国際コンサートホール
ドリス・アダム ピアノ・リサイタル

カリーン・アダム(ヴァイオリン) ドリス・アダム(ピアノ)

8/27(水)16:00 草津音楽の森国際コンサートホール
室内オーケストラ

カール=ハインツ・シュッツ(フルート) クリストファー・ヒンターフーバー(ピアノ) 茂木大輔(指揮) 草津フェスティヴァル・オーケストラ

8/28(木)16:00 草津音楽の森国際コンサートホール
カール=ハインツ・シュッツ フルート・リサイタル

カール=ハインツ・シュッツ(フルート) クリストファー・ヒンターフーバー(ピアノ)

8/29(金)16:00 草津音楽の森国際コンサートホール
サリエリとモーツァルト

カール=ハインツ・シュッツ(フルート) カリーン・アダム(ヴァイオリン) 般若佳子(ヴィオラ) 大友肇(チェロ) 他

8/30(土)9:30 草津音楽の森国際コンサートホール
スチューデント・コンサート

8/30(土)16:00 草津音楽の森国際コンサートホール
クロージング・コンサート

トーマス・インデアミューレ 若木麻有(以上オーボエ) 四戸世紀(クラリネット) 保崎佑 竹下未来菜(以上ファゴット) 他

問:草津夏期国際音楽アカデミー事務局03–5790–5561
https://kusa2.jp