
東京音楽大学付属高等学校卒業後に渡仏し、パリ国立高等音楽院、ザルツブルク・モーツァルテウム音楽院、スコラ・カントルムで学んだジャンミッシェル・キム。在欧時代から室内楽や歌曲伴奏においても評価高いピアニストで、何より共演者からの信頼が厚いところにその実力がうかがえる。ソロでは持ち前の音楽センスに加えて抜群の和声感で、楽曲の魅力を色彩豊かに、立体的に聴かせてくれる。どんな難曲大曲でも聴き手と音楽を共有する術(すべ)は特筆もので、今回のリサイタルも楽しみなラインナップとなっている。
ドビュッシーは、キムの美しいフランス語のように奏でられるだろうし、シューベルトでは歌心が味わえるはず。プロコフィエフのソナタ第3番「古い手帳から」では、若き頃の作曲家に内在する知的なピアニズムと色合いを、キムはどのように描くか。そしてベートーヴェンの「ハンマークラヴィーア」。ピアニストの誰もが憧れ畏れる、後期ソナタの名作かつ難曲中の難曲だ。このピアノ・ソナタには以前から憧れを持っていたというキム。「凄まじいスケールのエネルギーの中には意志の力や深い情緒があり、そこにベートーヴェンの超人的な知性と人間性をも感じられます。何より天才的な作曲技法には感嘆するばかり」と、難攻不落の山を前に武者震いするような様子から、着実にキャリアを積んできた、今年36歳のキムのアプローチに興味が高まる。全編を通してピアノという楽器の魅力も感じられる、魅惑の夏の夕べである。
文:上田弘子
(ぶらあぼ2025年6月号より)
ジャンミッシェル・キム ピアノリサイタル
2025.7/26(土)18:00 TOPPANホール
問:ジャンミッシェル・キム 日本コンサート090-6472-3734