カンブルラン&読響が醸し出す幻想的交響世界

左:シルヴァン・カンブルラン
右:北村朋幹 ©TAKA MAYUMI

 桂冠指揮者カンブルランが、今年も読響の指揮台に登場。当然ながら、彼らならではの唯一無二、興味深いプログラムが用意されている。

 メンデルスゾーンの「真夏の夜の夢」序曲で演奏会はスタート。カンブルランが読響から引き出す爽やかな響きは、演奏会全体への期待をかき立てることだろう。

 細川俊夫の「月夜の蓮」は、蓮の花が開くという、その動きともいえない動きを繊細な音楽で表現した2006年の作品だ。そこには、モーツァルトのピアノ協奏曲第23番へのオマージュも重ねられる。ソリストには、バロック以前からの幅広いレパートリーをもち、とりわけロマン派と現代曲で鋭敏なアプローチで魅了するピアニスト、北村朋幹を迎える。最強の布陣だ。

 そして、プログラム後半に演奏されるハンス・ツェンダーの「シューマン・ファンタジー」(日本初演)も、過去の名曲へのオマージュといえるだろう。仏教にも傾倒したドイツの作曲家が、シューマンの傑作ピアノ曲「幻想曲」op.17の全3楽章をオーケストレーション。独自の前奏曲と2つの間奏曲を付け足した交響的な作品だ。

 ツェンダーによる編曲といえば、シューベルトの「冬の旅」を見事なまでに魔改造したように、その奇想天外な響きに驚く人は多いはずだ。今回の「シューマン・ファンタジー」でも、打楽器や金管楽器を効果的に用いて、シューマンの病的といえるほどのロマンティシズムを最大限に拡張・増幅。この作曲家との縁も深かったカンブルランの指揮で、この快(怪?)作を聴けるという喜び!

文:鈴木淳史

(ぶらあぼ2025年6月号より)

シルヴァン・カンブルラン(指揮) 読売日本交響楽団
第650回 定期演奏会
2025.7/8(火)19:00 サントリーホール
問:読響チケットセンター0570-00-4390
https://yomikyo.or.jp