バッハのオルガン作品の全曲演奏シリーズが遂に完結
国際的にも熱い注目を集める名手・椎名雄一郎が、2005年から毎年続けて来たバッハのオルガン作品の全曲演奏シリーズ。今年5月に開く第12回で、いよいよ完結を迎える。日本初の偉業を前に「バッハの音楽経験を追体験できたと同時に、彼のオルガン音楽をより多角的に捉えられた」と椎名。
「実際にバッハの作品を弾いていると、『この部分は、パッヘルベルのこの曲を模範に…』『この箇所は、ベームのこの音型の影響だな』などと、他の作曲家との関係を感じることができ、逆に、ブクステフーデの作品を弾くと、『この部分に、バッハは感動したのだろう』などと、その想いが分かるようになりました。バッハはもちろん天才的な音楽家ですが、その音楽は様々な影響を受けていることを再発見できました」
最終回で取り上げるのは、オルガン作品ではバッハ最初の出版作品である「クラヴィーア練習曲集第3部」。
「バッハのオルガン作品の集大成と考えられる曲集。彼は明らかに、この作品集を『後世へ残そう』と考えていて、出版時には、緻密に校正を行っています。また、バッハは演奏会の際、最初に前奏曲、その後にコラール編曲を演奏し、最後にフーガを弾いたそうです。そして、この構成がこの曲集でも採用されています」
当シリーズは、カザルスホールでスタートしたが、第9回からは東京芸術劇場へ移動。これに伴い、オルガンもドイツのユルゲン・アーレントから、フランスのマルク・ガルニエ製作のものへと変更になった。
「同じバロックタイプでも、印象が大きく異なり、前者は室内楽的な響きを持ち、初期や中期の作品にぴったり。後者はダイナミックな音色で、中期から後期向き。『トッカータとフーガ』の回から移動したのは音楽上、とても良かったです」
ヨーロッパのように教会ではなく、日本では主にコンサートホールでオルガンが聴かれる現状を「新たなオルガン文化が育まれる、ひとつのチャンス」と位置付ける。4月には、構造や歴史、内外の名器など楽器の魅力を凝縮した著書『パイプオルガン入門』(春秋社)も出版。「これまでクラシックは聴いたものの、『オルガンはちょっと…』と言う方に向けての鑑賞ガイドを目指した」と話す。
「オルガニストは自分の楽器を決して持ち歩けないが、1台1台異なる楽器との出会いこそが喜び。同じ作品でも楽器が違えば表現も変化する。その可能性を追求するのが最大の魅力です。オルガンを弾き始めて四半世紀ですが、一度たりとも飽きたことはありません。様々な方々にオルガンの魅力を伝えるのが、私の使命。ピアノと同じように、楽しんでいただけるのが夢です」
取材・文:寺西 肇
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年5月号から)
J.S.バッハ オルガン全曲演奏会 2005-2015
第12回「クラヴィーア練習曲集 第3部」
5/31(日)14:30 東京芸術劇場コンサートホール
問:アレグロミュージック03-5216-7131
http://www.allegromusic.co.jp