毛利文香、田原綾子、笹沼樹の瑞々しい感性で描くTrio Rizzle版ゴルトベルク

©大窪道治

 ヴァイオリンの毛利文香、ヴィオラの田原綾子、チェロの笹沼樹の3人からなるTrio Rizzle(トリオ・リズル)が、トッパンホールで4回目の公演を開く。今回のプログラムはシェーンベルクの弦楽三重奏曲とバッハのゴルトベルク変奏曲(シトコヴェツキの弦楽三重奏版に基づくTrio Rizzleバージョン)という興味深い組合せ。後世に決定的な影響を与えた西洋音楽史のふたりの巨人が並べられる。

 シェーンベルクの弦楽三重奏曲は作曲者晩年に書かれた12音技法を用いた作品。この編成のために書かれた20世紀の作品として、避けて通ることのできない名作といえるだろう。作曲当時、シェーンベルクは発作を起こして昏睡状態に陥った。その臨死体験の記憶が作品に反映されたという逸話が知られている。臨死体験が描写されているかどうかはともかくとして、12音技法で書かれた作品としては聴きやすい部類に入る。

 本来、鍵盤楽器のために書かれたバッハのゴルトベルク変奏曲を、ヴァイオリニストのドミトリー・シトコヴェツキが弦楽三重奏用に編曲したのはグレン・グールドの追悼のためだった。この編曲は広く支持され、多くの奏者たちによって演奏されてきた。Trio Rizzleもこの編曲をこれまでに演奏しているが、今回はバッハの原曲を参照して得た知見を生かした「シトコヴェツキ編曲に基づくTrio Rizzle版」が披露される。長年の室内楽仲間である3人の信頼関係が、弦楽三重奏の新たな喜びをもたらしてくれることだろう。
文:飯尾洋一
(ぶらあぼ2025年2月号より)

Trio Rizzle Vol.4
2025.3/10(月)19:00 トッパンホール
問:トッパンホールチケットセンター03-5840-2222 
https://www.toppanhall.com