クセナキスが打楽器で創造した“宇宙”
「数学者・建築家でもあったヤニス・クセナキスについて多くの方は、難解な現代音楽の作曲家というイメージをお持ちかもしれません。しかし、彼の作品は“人間がつくったものを人間が演奏する”という大前提があり、その難しさを超えると土着的で力強く、むしろ人間臭いところもあるのです」
世界的な活躍を続ける打楽器奏者の加藤訓子は、クセナキスについてこう語る。最近、加藤はクセナキスの代表的作品「プレイアデス」を収録したCDをリリースしたばかり。アルバム制作のきっかけは「プレイアデス」劇場版をニューヨーク(米国初演)とKAAT神奈川芸術劇場で上演したことだった。
「もともと、この作品はダンスのために書かれています。演出家のルカ・ベゲッティさんとダンサーの中村恩恵さんと一緒にステージングしました。6人の打楽器奏者やダンサーなど、大人数の出演者が必要なのですが、6セットの打楽器を置くだけでもかなりの場所をとってしまいます。そこで、私が多重録音をし、6つのスクリーンに私の演奏している映像を投影、ダンサーは中村さん一人で、私もパフォーマンスに参加する、という手法を考えました。このステージのための録音をしているうちに、次第にこの素晴らしい作品に取り憑かれ、是非CDとして残しておきたいと考えるようになったのです」
「プレイアデス」は4楽章からなる6人の打楽器アンサンブルのための作品で、打楽器の世界的なレパートリー。
「打楽器の代表的な3つの素材[金属、鍵盤(木材)、太鼓(皮)]に特化した3楽章、メランジュ(総合・3つの素材すべてを使ったもの)という合計4楽章で構成されています。打楽器の限界に挑戦したような音楽で、クセナキスの音楽や楽器に対する夢や、宇宙的なものさえも感じる作品です」
クセナキスの楽譜には夥しい数の音符が記載されている。
「『プレイアデス』は、まず総譜からパート譜を作るところからはじめました。それだけでも丸3ヵ月ほどかかってしまい、楽器を選んだあとも、弾きながら訂正をくりかえし、計半年かかりました。ですから、フレーズやメロディを浮かび上がらせるまでには相当な時間を要しましたが、一旦出てくると本当に面白い」
CDには同じクセナキスによる「ルボン」も収録されている。
「こちらも打楽器ではポピュラーなレパートリーです。実は98年にもこの曲を録音しています。今回の録音と比べてある意味“大まじめ”に演奏しています。もちろん今回も楽譜に忠実に演奏したのですが、表現の幅と“うねり”があきらかに違いますね」
5月には相模湖と豊橋で「プレイアデス」の劇場版を上演(今回はダンス・パフォーマンス無し)。「ルボン」の生演奏もある。
「相模湖交流センターでは、3日間とも評論家や演奏家の方たちをお招きしたアフタートークを開催します。また、センター内のギャラリーでは『プレイアデス』の映像も上映します(豊橋でも上映)。ちょうどGW中ですし、相模湖エリアの観光もかねて、たくさんの方にご来場いただければと思っております」
取材・文:大塚正昭
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年5月号から)
加藤訓子 PROJECT IX 「プレイアデス」劇場版
5/1(金)、5/2(土)、5/3(日・祝) 各16:00 神奈川県立相模湖交流センター
問:神奈川県立相模湖交流センター042-682-6121
5/22(金)14:00 19:00 穂の国とよはし芸術劇場PLAT アートスペース
問:プラットチケットセンター0532-39-3090
【CD】
『加藤訓子 IX 〜ヤニス・クセナキス:プレイアデス/ルボン』
CKD-595S LINN/東京エムプラス
¥オープン 輸入盤