青木篤子(ヴィオラ)

カンチェリの難曲に挑みます


 東京交響楽団が4月の定期公演でカンチェリの「ステュクス」を取り上げる。指揮は飯森範親。グルジア出身で現在はヨーロッパで活動している作曲家ギア・カンチェリ(1935〜)の作品は、ギドン・クレーメルなども演奏しており、世界的な評価を得て来た。この「ステュクス」は「ヴィオラ、混声合唱と管弦楽のための」とサブタイトルが付いているように、珍しい編成による作品だ。1999年に作曲され、バシュメット(ヴィオラ)、ゲルギエフ(指揮)によって初演された。バシュメットは2005年に神奈川フィルハーモニー管弦楽団と日本初演も行っている。
 今回、その「ステュクス」でヴィオラを演奏するのは東京交響楽団首席ヴィオラ奏者である青木篤子。2008年に入団し、首席ヴィオラ奏者として活躍する一方、サイトウ・キネン・フェスティバルなどにも参加。またヴェーラ弦楽四重奏団のメンバーとしても演奏活動を行っている。
「バシュメットによる録音を聴いた時、衝撃を受けました。想像以上のダイナミクスの振幅があって、特に終結部に向けての展開に驚きました。ヴィオラのための作品としては、かなり高音部を使うことが多く、ヴァイオリンでもこのまま弾けるのではと思うほど。やはりバシュメットという名手を前提に書かれた作品なので、技術的にも難しい作品です」
 タイトルの「ステュクス」はギリシャ神話のなかで、地下の冥界を取り囲むように流れる川のこと。生者と死者の領域を分ける川であり、またその川そのものが神格化された女神の名前でもある。
「そのタイトルが意味するように、生と死、あるいは現世と彼岸というような2つの世界があり、そこを繋ぐような存在としてヴィオラがあるのかもしれません。また音の印象で言えば、混声合唱に対して、ヴィオラの音はカウンターテナーがソロで歌っている、そんな感じもします。全体としては美しいメロディが登場する部分もあって、楽しんで聴いていただける作品だと思います」
 同じ演奏会では、ショパンのピアノ協奏曲第2番(ピアノ:ニコライ・ホジャイノフ)、ドビュッシーの「海」が演奏される。
「飯森さんらしいプログラミングだと思いました。オーケストラの奏者として全部の作品に加わったら、どんな感想を持つのだろうか。そんな関心もありましたが、今回はソロに専念することにしました」
 個々の作品だけでなく、プログラミング全体の意図を考えつつ聴くのも楽しそうである。
取材・文:片桐卓也
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年4月号から)

飯森範親(指揮) 東京交響楽団
第50回 川崎定期演奏会 4/18(土)17:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
第629回 定期演奏会 4/19(日)14:00 サントリーホール
問 TOKYO SYMPHONYチケットセンター044-520-1511
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