マーティン・ブラビンズが都響と魅せるイギリス音楽の粋

左:マーティン・ブラビンズ ©Ben Ealovega
右:アンネリエン・ファン・ヴァウヴェ ©Joëlle Van Autreve

 オペラから新作初演まで幅広いレパートリーを誇るイギリスの名匠ブラビンズ。2025/26シーズンからはスウェーデンのマルメ響の首席指揮者に就任、世界から乞われる指揮者へと幅を広げている。都響への客演ではイギリス近代のシンフォニズムの系譜を継続的に選曲、紹介してきた。今回も知られざる、そしてとっておきの3曲を披露してくれる。

 エルガーの序曲「南国にて」は、イタリアのアラッシオを旅行した際の印象を音化したもの。序曲とはいえ20分ほどの堂々とした作品で、ドラマティックな展開はむしろ交響詩に近い。円熟期に入りつつあった作曲家の筆の冴えに注目。

 20世紀前半に活動したフィンジは、寡作ながら再評価が進んでいる作曲家だ。クラリネット協奏曲は戦後の傑作で、哀愁と慎ましさが入り交じった節回しに個性が香る。ソロのアンネリエン・ファン・ヴァウヴェは2012年のミュンヘン国際の最上位入賞者。ブラビンズ&都響の助力を得て作曲家の抒情性を的確にとらえていくはずだ。

 そしてイギリス20世紀最大のシンフォニスト、ヴォーン・ウィリアムズの交響曲第9番。80代半ばに差し掛かった作曲家が最後に取り組んだ大作で、初演の少し後に世を去っている。作品は荘重な主題で始まり、全編にわたって厚く塗られたオーケストレーションが重々しい気分を伝えてくる。それまでの作品に比べると地味で難解だが、近年理解が進んできた。ブラビンズは昨年BBC響と本作をもってヴォーン・ウィリアムズの交響曲全集を完結させたばかり。いよいよ都響を相手に、作品の真価を日本のファンに届けてくれる。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2024年10月号より)

マーティン・ブラビンズ(指揮) 東京都交響楽団
第1010回 定期演奏会Bシリーズ
2024.10/24(木)19:00 サントリーホール
問:都響ガイド0570-056-057
https://www.tmso.or.jp