初の京都開催となる「アジア オーケストラ ウィーク」で大友直人&京響と共演
アジア太平洋地域から各国を代表するオーケストラを招いて毎年開催されている文化庁芸術祭主催公演「アジア オーケストラ ウィーク」。初の京都開催となる今年は、シンガポール交響楽団と京都市交響楽団が出演。10月22日には箏奏者のLEOが登場し、大友直人が指揮する京響と宮城道雄の「春の海」、自作の「松風」を披露する。オーケストラとの共演をはじめ、ブルーノート東京やSUMMER SONICにも出演し、箏という楽器の可能性を無限大に拡げてきたLEOに公演への意気込みを聞いた。
「京都市交響楽団との共演は2回目になります。前回は2021年のニューイヤーコンサート、井上道義先生の指揮で、伊福部昭の『二十絃箏とオーケストラのための〈交響的エグログ〉』を演奏しました。当時はまだオーケストラとの共演にも慣れていなかったうえに30分近い大曲、多弦の箏を舞台で弾くのもはじめてだったので、とても思い入れのある公演でした。コンサートマスターが石田泰尚さんだったのも印象に残っています」
藤倉大がLEOの委嘱で作曲した「箏協奏曲」などを通じ、ここ数年の間にオーケストラとの共演を重ねてきたLEO。今では即興的なやり取りも楽しめるようになったという。
「以前はあれだけの人数のオーケストラと一緒に、自分がソリストとして演奏することのプレッシャーで毎回緊張していたのですが、最近はメンタルのバランスがとれるようになりました。そうすると耳が開くので、指揮者が今どんなことを考えているのかを読み取る余裕も出てきて。結局、ピアノとのデュオでも、オーケストラとのコンチェルトでも、アンサンブルであることに変わりはないんですね。自分から引っ張りたいときに『こう行くよ』というメッセージを、音、身体、息遣いに乗せて伝えることが、前より上手になったのかもしれません」
今回演奏する「春の海」は、宮城道雄が作曲した箏と尺八による原曲を、池辺晋一郎が箏とオーケストラ用に編曲した作品。邦楽特有の間(ま)の感覚をオーケストラと共有するのは至難の技だとLEOは語る。
「尺八との『春の海』はいつも弾いているので、今の自分だったらこう弾くという自分なりの正解がありますが、オーケストラ版は本当に難しいんですよ。尺八とのふたりの間で作られる間(ま)運びを、そのままオーケストラに持ち込むことは不可能ですし、だからといって間(ま)で作る音楽にしないようにすると、アンサンブルはうまくいくものの、『春の海』らしさが失われてしまう。そのバランスが難しい。これまで何回か演奏しましたが、いまだに正解が見つかっていないので、今度の本番が楽しみです」
いっぽうで「春の海」の作曲者である宮城道雄は、西洋音楽の要素を取り入れた作品で邦楽界にセンセーションを巻き起こした人物として知られる。日本人にとってはお正月のイメージと直結する「春の海」も、じつは西洋音楽の影響を受けていると思うと興味深い。
「『春の海』は宮城先生の作品のなかでも、かなり西洋音楽に寄っている曲だと思います。構成が『A-B-A』のようになっていること自体、日本の音楽としては画期的ですし、調弦も特殊。あれだけ反復する音楽もありませんでしたし、当時の日本人にとっては斬新に思えたのではないでしょうか。それに対して、西洋の人からすると『春の海』は理解しやすい曲のようですね。フランスのヴァイオリニストと宮城先生が録音したレコードがありますが、僕もワルター・アウアーさんというフルート奏者とこの曲を共演したことがあって、とても自然にアンサンブルが成り立ちました。そういう意味で、邦楽と西洋音楽の融合における、ひとつの完成形であると思います」
もうひとつの「松風」は、LEO自身が作曲したオリジナル。2022年11月に放送されたMBSの番組『二条城音舞台』のために書き下ろした箏の独奏曲で、二条城を舞台に、ダンサーの田中泯との共演で初演された。今回は伊賀拓郎の編曲による箏と弦楽アンサンブル版が初めて披露される。
「『松風』は『春の海』とほぼ同じ調弦で書かれています。二条城といえば松の障壁画が有名ですが、僕はこの曲において“松”を普遍性の象徴、“風”を流動的で刻一刻と変わっていくものとして配置し、1曲のなかで日本の古典と西洋音楽をどう融合させるかを考えながら作りました。邦楽的な間(ま)で進む部分もあれば、僕の好きな変拍子をインテンポで弾くことによってグルーヴ感を出したい部分もあって。以前、カルテットと演奏したときは、そういったグルーヴ感を一緒に感じることができてすごく楽しかったです」
かねてからLEOと親交の深い伊賀の編曲によって、新たな彩りも加えられたとのこと。
「伊賀さんは、僕がいろいろなジャンルの音楽を聴いているのを知っているので、急にジャズっぽい音使いを入れてきたり、ロックっぽくなったり、至るところに“伊賀イズム”が感じられる曲になっていると思います。ソロで弾くときよりも、シーンが移り変わっていくような世界観の変化があって面白いですね。京都にちなんだこの作品を、装いも新たに京都で初披露できるのは、とても嬉しい巡り合わせです」
最近はさらに広く、世界中のあらゆる音楽とのコラボレーションを模索しているというLEO。「どんな音楽をやっていても、すべて自分の音楽の糧として還元されていくんですよね」と語る彼の新たな一歩を、ぜひ京都で目撃してほしい。
取材・文:原典子
令和6年度(第79回)文化庁芸術祭主催公演
アジア オーケストラ ウィーク 2024
京都市交響楽団
10/22(火)19:00 京都コンサートホール
出演
指揮:大友直人
箏:LEO
プログラム
伊福部昭:SF交響ファンタジー第1番
宮城道雄(池辺晋一郎編):管弦楽のための「春の海」
今野玲央(伊賀拓郎編):松風
ブラームス:交響曲第1番 ハ短調 op.68
他公演
シンガポール交響楽団
10/19(土)16:00 京都コンサートホール
問:日本オーケストラ連盟03-5610-7275
https://www.orchestra.or.jp/aow2024/