アンドレアス・オッテンザマー (指揮)

ベルリン・フィルのスーパースターが待望の再登場

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 クラリネット奏者として輝かしいキャリアを積み重ねているアンドレアス・オッテンザマーは、ここ数年、指揮者としても世界中で大活躍している。そのキャリアはどう形作られたのだろうか。

 「指揮への関心は、じつはクラリネットを勉強し始めた頃からのものです。オーケストラで演奏するようになると、クラリネットのパートだけでなくスコアを見ることも面白いと思うようになりました。もちろんソリストとしても楽しんでいましたけれども、今後のキャリアを考えたとき、クラリネット奏者としてこれまでやってきたことをあと何十年も繰り返していくので良いのだろうか、それが果たして私の成長になるか、と自問しました。そして“私自身をより表現できる言葉”を探したいと思い、新しいチャレンジ、つまり指揮に取り組むことにしたのです」

 すでに数多くのオーケストラを指揮しているオッテンザマーだが、東京交響楽団とは9月の演奏会が2022年以来2度目の共演である。

 「2年前は日本での私の指揮者デビューだったので、ほんとうに特別でした。私自身、オーケストラとどういう“化学反応”が起こるか楽しみにしていましたし、本番は素晴らしい経験になりました」

 前回、彼はクラリネットのソリスト兼指揮者という「吹き振り」を披露したが、今回は指揮に集中。ストラヴィンスキー、モーツァルト、チャイコフスキーの3作品を振る。彼によると、このプログラムのキーワードは「大作曲家による知られざる作品の新発見あるいは再発見」である。

 「この演奏会の中心は、チャイコフスキーの交響曲第1番です。チャイコフスキーはみなさんよくご存知だと思いますが、この曲はほとんど演奏されませんので、ちょっとした驚きを感じていただけるでしょう。私は有名な作曲家のあまり演奏されない作品をみて、それが演奏するに値しない曲なのか、それとも人々が十分に分かっていないだけなのかを考えるのが好きです。演奏されない理由が分かる曲もたしかにありますが、この曲の場合はまったく分かりません。ほんとうに素晴らしい作品ですから。

 プログラム前半はストラヴィンスキーとモーツァルト。私はこの二人の作曲家はよく合うと思っています。ストラヴィンスキーの『弦楽のための協奏曲』も、『春の祭典』などと違ってあまり知られていませんね。とても軽やかで、踊るような、リズムが刺激的な作品です。シンプルに聞こえますが、楽譜はとても複雑で、簡単には指揮できません。モーツァルトのヴァイオリン協奏曲第5番はユーモアにあふれる曲。私にとってモーツァルトは、いつもオペラです。登場人物がいて、会話があり、つねに何かが語られているかのようです」

 この演奏会のもう一つの注目は、若きヴァイオリニスト中野りな。初共演となるオッテンザマーも、彼女の才能に太鼓判を押す。

 「彼女とは一度リハーサルをしたのですが、すでに素晴らしい個性があり、とても良かったです。ぜひライジング・スターを聴きにいらしてください」
取材・文:越懸澤麻衣
(ぶらあぼ2024年9月号より)

ミューザ川崎シンフォニーホール & 東京交響楽団 名曲全集 第199回
2024.9/14(土)14:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
問:ミューザ川崎シンフォニーホール044-520-0200
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