鈴木大介(ギター)

スペイン音楽に抱く“郷愁”をさぐる旅

©Nobuo MIKAWA

 鈴木大介と沖仁の共演。それを聞いただけで胸ときめく音楽ファンも多いのでは。しかもタイトルは「ギターで辿るスペイン音楽の旅」だ。鈴木はこう問いかける。

 「スペイン音楽を聴くと、なぜか郷愁を感じませんか? あるいは特別な親しさのような感覚もあります。それはなぜなのかとずっと考えてきたのですが、沖仁さんと共演するなかで、その秘密を解き明かしてみたいと思います」

 9月4日にヤマハホールで開催されるふたりのデュオは、興味深いプログラムで構成される。前半は鈴木のソロで、F.ソルの「グラン・ソロ」やアルベニス「カディス」、グラナドス「アンダルーサ」などの名曲が演奏され、後半は沖とのデュオで、ナルバエス「皇帝の歌」、ムルシア「ファンダンゴ」、サンス「カナリオス」などが並ぶ。

 「スペイン音楽が日本に伝わったのは16世紀、キリスト教の伝来と一緒にやってきたはずです。つまりルネサンス期のスペイン、あるいはヨーロッパ諸国の音楽が当時の日本で響いていた。その頃はまだクラシカル・ギターではなく、いわゆるビウエラと呼ばれるギターの前身の楽器の時代でした。その時代にルーツを持つ音楽も含め、スペイン音楽の歴史を辿って行くと、僕たちが感じる郷愁の秘密も分かってくるのではないか、というのが今回のコンサートのアイディアです。その共演者としてはフラメンコ音楽を中心に活動している沖さんしか思い付かないし、彼が培った知見がこのコンサートの中で生きるはずだと思っています」

 ヤマハホールのアコースティックもギターにぴったり。このホールの開館10周年を記念して2日間にわたり開催された「アコースティックギター・フェスティバル スペシャルコンサート」(2020年1月)でも、沖は1日目のトリを務め、イエペスの演奏で有名な「禁じられた遊び(愛のロマンス)」を披露した。今回のコンサートの中では、鈴木がタレガの「アルハンブラの思い出」を弾くことも話題になりそう。

 「これまでの演奏活動の中で、僕はギタリストが弾きそうないわゆる有名レパートリーではなく、あまり光の当たらない作曲家に焦点をあててきたようなところがあります。だから、日本人にとって、“クラシックギター=スペイン”というイメージも根強くあるなかで、あえてスペイン音楽の魅力を掘り起こすコンサートは、僕にとって一種のチャレンジとも言えるかもしれません」

 ふたりの演奏のなかに、自分もその郷愁の在処を探しに行きたい。
取材・文:片桐卓也

鈴木大介 × 沖 仁 ギターで辿るスペイン音楽の旅
2024.9/4(水)19:00 ヤマハホール
問:ヤマハ銀座店インフォメーション03-3572-3171
https://retailing.jp.yamaha.com/shop/ginza/hall/