びわ湖ホール声楽アンサンブル 第79回定期公演・東京公演vol.15
「4人の作曲家たち ~フォーレ、ドビュッシー、ラヴェル、プーランク~」

多才な声楽家集団が近代フランス珠玉の名曲集で魅せる!

左:佐藤正浩
右:下村 景

 ひと口に、歌声といっても様々で、オペラだと強烈なパンチを思わせる逞しい響きが飛び出したり、妖しく輝く不思議な声音や猛烈な勢いの大コーラスに耳奪われたりすることがある。一方、歌曲では、しなやかな風にも似た優しいアプローチや、峻厳たる人生観に包まれることも。また、少人数の合唱団なら、水流のごとき爽やかさを代表格に、みなで響きを揃えて生み出す「抑制の美学」に心洗われもするのだろう。

 クラシックの声楽家には、この3つの世界に跨って活動する人もいるが、その反面、自分のジャンルを定めて修練を積む人もいる。でも、大抵の歌手ならオペラと歌曲を両方手掛けたいだろうし、コーラスに時々参加する人も少なくはない。「いろんな曲やジャンル」に取り組むことで表現の幅は広がるのだ。

びわ湖ホール声楽アンサンブル

 実は、国内でこの3分野に精力的に取り組むグループといえば、まずは「びわ湖ホール声楽アンサンブル」である。オペラのソリストとしても、歌曲の歌い手としても、合唱団の一員としても日々研鑽を積む彼ら。大胆な比喩を用いるなら、その活動ぶりは「歌の風の精」を思わせるもの。オペラの熱波も、歌曲のそよ風も、合唱の涼風もすべて操りながら、歌の様々な愉しみを客席に届けるからである。

 さて、このびわ湖ホール声楽アンサンブル、来る10月中旬には「第79回定期公演&東京公演vol.15」と題して、二度の公演を行う。テーマはフランス近代の四大人気者——フォーレ、ドビュッシー、ラヴェル、プーランク——の知られた名曲選になり、コーラスとソロで歌声を披露するという。作曲家それぞれの作風の違いを知るのも良し、数々のメロディ(フランス近代歌曲を指す用語)で声の個性を較べるのも良し、また、少人数のコーラスならではの響きの透明感を味わうのも良し、と様々な愉しみ方ができるだろう。

 今回、この「凝りに凝ったプログラム」を発案したのは指揮者・佐藤正浩。例えば、合唱界で大人気の端正な宗教曲〈ラシーヌの雅歌〉(フォーレ)や中世のテクストに基づく典雅なアカペラ〈シャルル・ドルレアンの3つの歌〉(ドビュッシー)で棒を振り、プーランクの名曲〈平和への祈り〉は、元の独唱曲を佐藤自身がコーラスにアレンジするという。また、上記の通り、メンバーたちが独りずつ歌曲に挑むのも聴きものである。フォーレの流麗な〈月の光〉や軽妙な〈マンドリン〉、ドビュッシーのメロディアスな〈星の夜〉、ラヴェル一流の「大人の味わい」で迫る〈空想的な歌〉(「ドゥルシネアに思いを寄せるドン・キホーテ」第1曲)など、下村景のピアノ伴奏と共に、心ゆくまで楽しんでもらえたらと願う。

 ちなみに、一般的なイメージとしては、フォーレには清冽さ、ドビュッシーだと幻想性、ラヴェルでは洒脱さ、プーランクなら親近感を覚える人が多いよう。でも、このプログラミングなら、作曲家ごとの思想や作風をより深く鮮やかに聴きとってもらえるに違いない。ぜひ足を運んでいただけたなら!
文:岸 純信(オペラ研究家)
(ぶらあぼ2024年8月号より)

第79回定期公演
2024.10/12(土)14:00 びわ湖ホール 小ホール
東京公演vol.15
10/14(月・祝)14:00 東京文化会館 小ホール
問:びわ湖ホールチケットセンター077-523-7136 
https://www.biwako-hall.or.jp/