
大野和士はブリテンの声楽つきの作品が大好きだという。「好きこそものの上手なれ」というだけに、2013年6月に東京文化会館で東京都交響楽団と「戦争レクイエム」を演奏したときも、引き締まった響きと高い集中力で、見事な音楽を聴かせてくれた。
あのときは、2015年から大野が都響の音楽監督に就任するという発表が2週間ほど前にされたばかりだった。そのため、開演前の客席が大きな期待とともに大野の登場を待っていたことを、今もよく憶えている。
それから13年。都響とともに充実した活動を繰り広げてきた大野は、3月をもって音楽監督を退任し、芸術顧問に転じる。音楽監督として最後となる定期演奏会に、ブリテンの声楽つきの交響曲、「春の交響曲」を選んだのは、この作曲家との結びつきの強さの証明ともいえるだろう。
とはいえこの作品は、コロナ禍のために2020年、22年と延期を重ね、「三度目の正直」でついに実現するものでもある。死の影におおわれた「戦争レクイエム」とは対照的に、新たな生命が育つ暖かな春を讃美するさまざまな詩を、3人の歌手と合唱とともに奏でていく作品だ。
プレヴィンとドビュッシーによる他の2曲も、「春」をテーマとする軽やかな音楽。前者が日本初演というのもポイントだ。そして偶然にも、この日は大野の誕生日でもある。春の到来と生命の始まりを、朗らかに言祝ぐコンサートである。
文:山崎浩太郎
(ぶらあぼ2026年2月号より)
大野和士(指揮) 東京都交響楽団 第1038回 定期演奏会 Aシリーズ
2026.3/4(水)19:00 東京文化会館
問:都響ガイド0570-056-057
https://www.tmso.or.jp

山崎浩太郎 Kotaro Yamazaki
1963年東京生まれ。演奏家の活動と録音をその生涯や同時代の社会状況において捉えなおし、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。著書は『演奏史譚1954/55』『クラシック・ヒストリカル108』(以上アルファベータ)、片山杜秀さんとの『平成音楽史』(アルテスパブリッシング)ほか。
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