「サラダ音楽祭」歌もダンスも! エネルギー漲るメインコンサート

Noism Company Niigataが満を持して「ボレロ」に挑む!

文:乗越たかお

 2018年から池袋エリアで行われてきた通称「サラダ音楽祭」。「Sing and Listen and Dance~歌う!聴く! 踊る!」の頭文字がSaLaDの由来だ。盛りだくさんの内容だが、大野和士指揮・東京都交響楽団による、今年も合唱ありダンスありと充実のメインコンサートを中心に紹介しよう。

2023年 サラダ音楽祭・メインコンサート ©サラダ音楽祭実行委員会

 メインコンサート前半はジョン・ラターの合唱曲「マニフィカト」、後半ではドビュッシーの「海」とラヴェルの「ボレロ」が演奏される。特に「ボレロ」はサラダ音楽祭ではお馴染みの、日本を代表するダンスカンパニー・Noism Company Niigataによるダンスとのコラボレーションが予定されている。

 今回の選曲について大野は、「マニフィカト」は「コンサートホールの奥行のある空間に響き渡るような音楽」だとしたら、後半の「海」と「ボレロ」は「音が回る、渦巻きが生じるような音楽です」と語っている。3つの曲が、ホールの中でどのように響き渡るかを意識しながら聴くのも面白いだろう。

大野和士 ©サラダ音楽祭実行委員会

 「マニフィカト」はキリスト教聖歌のひとつであり、受胎告知を受けた聖母マリアが親戚を訪れた際に神への感謝と歓喜を歌うものだ。作曲したラターは大小様々な合唱作品で定評があるが、この曲は1990年に発表して以来、世界中で演奏され続けている代表作だ。神への敬虔さを保ちながら、とめどなく溢れ出る喜びの奔流は、聴衆の身体を熱く包み込むに違いない。そして、ソプラノ独唱の前川依子と新国立劇場合唱団が歌い上げる賛美と慈しみが、深く胸に広がっていくだろう。大野によれば、この曲は宗教的なものではあるが、同時に「現代における内面的なもの、精神的なものとの衝突」が描かれているという。まさに現代でこそ演奏されるべき作品なのである。

前川依子

 後半は2曲。まずドビュッシーの「海」は、きわめて静かに凪いだ海の情景から始まる。やがて荒れ狂う姿を見せた後に、波頭の燦めきが見えてくるような美しい弦楽器の旋律が現れる。海が持つ豊かな表情を余すところなく伝えてくれるだろう。

 そして締めくくりは「ボレロ」である。もともとは3拍子で踊る古いスペイン舞踊や音楽を指す言葉だが、今日の観客が思い浮かべるのは、1928年にラヴェルが作曲した有名曲だろう。当時ダンサー・女優としてカリスマ的な人気を誇っていたイダ・ルビンシュタインの1幕バレエのために作曲されたものだ(振付はニジンスカ)。スペインの居酒屋のテーブルの上でロマ(ジプシー)の踊り子が周りの男性客を誘惑・挑発していく……という内容だった。しかし1961年、モーリス・ベジャールによって振り付けられた「ボレロ」が映画を含めて大ヒット。歴史的傑作として現代でも踊り継がれるようになった。特に「メロディ」と呼称される真っ赤なテーブルの中央で踊るダンサーの踊りに、周囲の男たち(「リズム」と言われる)が引き寄せられていく。そして最後に大きなダンスの渦が巻き起こる様は、後述する曲の構成とも完璧に合致している。しかもこの「メロディ」、男女両方のダンサーが踊り継いできたという点でも珍しい作品である。あるときは周りの男たちの欲望を一身に受ける聖なる娼婦のようであり、またあるときは男たちを制圧し従えて踊る女帝のように見えたりと、様々にその相貌を変える奥深さがある。

 そんな「ボレロ」に、Noismの金森穣が挑むのは、ダンスファンにとってはちょっとした事件なのである。なぜならダンス作品にとって「ボレロ」は、「名作か、駄作か」に分かれる恐ろしい曲だからだ。「ボレロ」はたった二つの旋律を繰り返すのみ。そこへ楽器が次々に加わり、やがて大きなうねりになっていく。つまりクライマックスに向けて、否応なく盛り上がる構造になっているのである。そんな曲の魅力へ安易に乗るようなダンスでは、ことごとく駄作に終わるのが当然だ。しかし曲の誘惑に打ち勝ち、ダンスの魅力で突破してみせた作品は名作の誉れを受ける。魔性の曲といっていい。

左:金森穣(Noism芸術総監督) 右:井関佐和子(Noism国際活動部門芸術監督)
(2023年 サラダ音楽祭・メインコンサートより) ©サラダ音楽祭実行委員会

 今作で金森は設定を原作の酒場から修道院に移し、中央で踊るダンサーは「生贄」として描かれる。その踊りが放つエロス(生への衝動)は、やがて修道士たちを縛っていた禁欲の鎖を解き放っていくことになる。

「そして最後は全員で生命の叫びを上げるのです。それはこの閉塞した時代へのメッセージ、生の讃歌といえるでしょう」(金森)

 振付家にとって「ボレロ」は「満を持して挑む作品」である。ましてマスターピースを振り付けた先述のベジャールは、金森の師匠にあたる。自信をもって送り出した昨年の初演からさらに磨き上げ深まった名作の上演を、楽しみに待ちたい。

 それにしても1曲目の「マニフィカト」がイエスを身ごもる聖母マリアの喜びから始まり、ラストの「ボレロ」もまた生命が持つ根源の力を解放させていくもの。そして両者を繋ぐのが、万物の生命の母である「海」…… 今年のメインコンサートは、ちょっと「できすぎ」なくらい、みごとなプログラムではないだろうか。

コンドルズ(2023年サラダ音楽祭「OK!オーケストラ」より) ©サラダ音楽祭実行委員会


 また大野が指揮し、人気ダンスカンパニーのコンドルズが出演する「OK!オーケストラ」も毎年好評を博している。タイトルの通り、小さなお子さんも赤ちゃんを抱えた親御さんも高齢者のみなさんも、誰でもOK!な笑いと歓声に満ちた楽しいイベントである。色とりどりのサラダを楽しむように、様々な音楽を楽しもう。

Information

サラダ音楽祭
TOKYO MET SaLaD MUSIC FESTIVAL 2024

メインプログラム

音楽祭メインコンサート《Boléro》

2024.9/15(日)15:00 東京芸術劇場 コンサートホール
〈演目〉
ラター:マニフィカト*
ドビュッシー:交響詩「海」-3つの交響的スケッチ
ラヴェル:ボレロ(ダンス付き)

〈出演者〉
指揮:大野和士
ソプラノ:前川依子*
合唱:新国立劇場合唱団*
ダンス:Noism Company Niigata(演出・振付/金森穣)
管弦楽:東京都交響楽団

OK!オーケストラ〜0歳から入場OK!

2024.9/14(土)11:00、15:00 東京芸術劇場 コンサートホール
〈演目〉
すぎやまこういち:交響組曲『ドラゴンクエストⅤ』天空の花嫁より「序曲のマーチ」
ビゼー:歌劇《カルメン》より「前奏曲」 ♪指揮体験コーナー
アンダーソン:シンコペーテッド・クロック、フィドル・ファドル
中川ひろたか(萩森英明編):にじ☆
ハチャトゥリャン:バレエ音楽『ガイーヌ』より「レスギンカ」(ダンス付き)
ビゼー:歌劇《カルメン》より「アラゴネーズ」「アルカラの竜騎兵」「ジプシーの踊り」

〈出演者〉
指揮:大野和士
司会:小林顕作
ダンス・振付:近藤良平
ダンス:コンドルズ
児童合唱:東京少年少女合唱隊☆
管弦楽:東京都交響楽団

※サラダ音楽祭その他公演の詳細は下記オフィシャルウェブサイトでご確認ください。

問:サラダ音楽祭事務局03-6704-9342
https://salad-music-fes.com