堤剛(霧島国際音楽祭音楽監督/チェロ)& 谷昂登(ピアノ)

日本屈指の老舗音楽祭、その魅力の粋を東京でも

 今年45回目を迎える霧島国際音楽祭は、極上の音楽と自然や温泉、酒食を併せて楽しめる日本最古クラスの夏の音楽祭。音楽的にはコンサートとマスタークラスが両輪を形成している。

 その音楽監督を2001年から務めるのがチェロ界の重鎮・堤剛だ。

堤 剛 ©鍋島徳恭

「当音楽祭が充実・発展して国際的な存在になり、創立者ゲルハルト・ボッセ先生の哲学や信念が実りつつあることを、とても嬉しく思っています。音響抜群の『みやまコンセール』をはじめ、鹿児島市内や離島などコンサートの数も範囲も広がりましたし、受講生が飛躍を遂げて戻ってくること、現地の環境や地元の皆様の盛り上げも良き特徴になっています。またマスタークラスの受講生は3分の1くらいが海外─特にアジア各国─の方。コロナ禍でも継続しましたが、今年は海外勢を含めて2019年以前の形に戻る予定です」

 受講生・演奏家双方の形で参加しているのが、俊才ピアニスト・谷昂登。昨年秋からケルンで学ぶ彼は、第38回霧島国際音楽祭賞並びに堤剛音楽監督賞を受賞している。

谷 昂登 ©井村重人

「世界最高峰のエリソ・ヴィルサラーゼ先生のレッスンやリサイタルに接して、ピアノに対する考え方が変わった上で、人前での演奏ができるのは幸せなこと。また、色々なコンサートを聴ける点、他の楽器の先生たちと関わりを持てる点、自分以外のレッスンを見学できる点などが、演奏にも良い影響を与えてくれます」

 さて、現地では恒例の「キリシマ祝祭管弦楽団」が、11年ぶりに東京公演を行う。ワーグナーの《トリスタンとイゾルデ》より「前奏曲と愛の死」、谷がソロを弾くリストのピアノ協奏曲第1番、ストラヴィンスキーの「春の祭典」と、革新作が並ぶプログラムも実に意欲的だ。

「素晴らしいのはコンサートマスターや首席奏者が多数揃ったそのメンバー。念願の東京公演が叶う今回は、数年前台湾に行って驚嘆されたようなインパクトを与えたいと思っています。谷さんが弾くリストは、成長した彼が新たな発見をもたらすことを期待していますし、敏腕メンバーを生かした『春の祭典』はむろん大きな見どころになります」

 谷は2度目の共演となる。

「リハーサルで最初の音を聴いて圧倒され、共演が大きな経験になりました。今回のリストの1番は、循環形式で統一性のある曲の中に、新しい技法が詰め込まれています。技巧面が注目されがちですが、情感や愛を感じる部分も多いので、そこをうまく表現したいですね」

 指揮のデイヴィッド・レイランド、祝祭管のコンサートマスターで、霧島では室内楽の公演も行うフランク=ミヒャエル・エルベンの存在も大きい。

「昨年初登場のレイランドさんは、音楽に打ち込む姿勢が奏者にも伝わって、すごく評判が良かった。またエルベンさんは一昨年の初参加で強烈な印象を与えてくれました。ゲヴァントハウス管の第1コンサートマスターで、ボッセ先生の愛弟子でもある彼は、そうした伝統を引き継ぎながら、奏者、コンサートマスター、指導者として素晴らしく、何より人柄に惹かれます」

 霧島での音楽祭も、5年ぶりの「ザビエル教会コンサート」、「堤剛音楽監督バースデー・コンサート」等々、他では聴けないコンサートが目白押し。可能な方は現地に、そうでない方は貴重な東京公演に、ぜひ足を運びたい。
取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ2024年6月号より)

第45回 霧島国際音楽祭
2024.7/19(金)~8/4(日) 霧島国際音楽ホール(みやまコンセール)、宝山ホール 他
問:霧島国際音楽ホール(みやまコンセール)0995-78-8000
  ジェスク音楽文化振興会03-3499-4530
キリシマ祝祭管弦楽団 東京特別公演
2024.8/6(火)19:00 サントリーホール
問:ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212
https://kirishima-imf.jp
※音楽祭の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。