この6月末から7月初旬にかけて、山田和樹とバーミンガム市交響楽団が、来日公演を行う。山田がこの楽団と日本ツアーを行うのは、2016年(客演指揮者として)、2023年(首席指揮者兼アーティスティックアドバイザーとして)に続いて3回目であり、今回は音楽監督という堂々たる肩書きでの凱旋公演になる。

筆者がかつて山田にインタビューした際、バーミンガム市響について「英国の中でも際立って柔軟で、エキサイティングなオーケストラだと思います。どんなレパートリーでも独自のやり方でできるという安心感があります」と語っていた。今回のメインプログラムには、チャイコフスキーの交響曲第5番に加え、BBCプロムスの前身である「プロムナード・コンサート」を長年指揮したヘンリー・ウッド編曲のムソルグスキー「展覧会の絵」という型破りな演目を用意した。この1月、バーミンガム市響は山田との契約を2028/29年シーズンまで延長したばかりであり、相思相愛ともいえる彼らの現在を体感できるまたとない機会になろう。
もうひとつ、今回の来日公演が少し特別なのは、山田和樹のベルリン・フィル・デビュー(6月12〜14日)の直後に行われることだ。山田は昨年、シカゴ交響楽団、ニューヨーク・フィルハーモニックといったアメリカのメジャー・オーケストラに立て続けにデビューを飾っているが、欧州最高峰であるベルリン・フィルへの初登場により、国際的な指揮者として新たなステージに到達することになる。

この来日公演に彩を添えるのが、河村尚子(ピアノ、7/1)、イム・ユンチャン(ピアノ、7/2・7/4)、シェク・カネー=メイソン(チェロ、6/30・7/5)という今を時めくソリストたち。この中で筆者は2月頭、今シーズン、ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団のアーティスト・イン・レジデンスを務めるカネー=メイソンにインタビューをする機会があった。
2016年、17歳のカネー=メイソンはBBC主催のヤング・ミュージシャンのコンクールで優勝し、一躍注目を集める。以降BBCプロムスの常連となり、2018年にはウィンザー城で行われたサセックス公爵夫妻の結婚式で演奏するなど、特に英国で絶大な知名度と人気を誇る音楽家だ。
今回山田&バーミンガム市響の日本ツアーで披露するエルガーのチェロ協奏曲は、すでにサー・サイモン・ラトル指揮ロンドン交響楽団とDECCAに録音している十八番のレパートリー。「チェロという楽器を本当に好きにさせてくれた特別な曲です。私はジャクリーヌ・デュ・プレの名録音からインスピレーションを受けて育ちました。深い感情表現に満ちており、それはとてもパーソナルかつ親密なものです」と彼は語る。
山田和樹とはすでにバーミンガムで共演しており、「素晴らしい音楽性の持ち主で、魂のこもった、創造的なアプローチの方法を持っている指揮者」と日本での初共演を心待ちにしているという。

そんなシェク・カネー=メイソンは、カリブ海のアンティグア島出身の父と、西アフリカのシエラレオネ出身の母を持ち、6人の兄弟姉妹は全員楽器を演奏するという並外れた音楽一家に育った。先のデュ・プレに加え、レゲエの先駆者ボブ・マーリーを深く尊敬し、その楽曲をレパートリーにも取り入れるなど、ジャンルの垣根をやすやすと超える。
残念ながら世界は分断の傾向が一段と強まっているが、音楽という芸術の本質をカネー=メイソンはこう語ってくれた。
「音楽自体は、ある意味、世界から切り離されていることが多いように見えますが、実際はとても密につながっています。なぜなら、音楽は人間によって書かれ、私が深く見ている物事に関わるものだからです」
自由で伸びやかな音楽性を持つ若きシェク・カネー=メイソンと、日本人の音楽監督・山田和樹、そしてエルガーの本場の音色を熟知するバーミンガム市交響楽団による共演は、大きな聴きものになるはずだ。
文:中村真人
(ぶらあぼ2025年4月号より)
山田和樹(指揮) バーミンガム市交響楽団
2025.6/30(月)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
7/1(火)、7/2(水)各日19:00 サントリーホール
7/4(金)19:00 アクロス福岡シンフォニーホール
7/5(土)15:00 ロームシアター京都 メインホール
問:ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212
https://www.japanarts.co.jp
※公演により出演者、プログラムは異なります。詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。
他公演
2025.6/28(土) 愛知県芸術劇場 コンサートホール(CBCテレビ事業部052-241-8118)
6/29(日) 兵庫県立芸術文化センター(0798-68-0255)
7/6(日) 横浜みなとみらいホール(神奈川芸術協会045-453-5080)