偉大な業績を振り返る2夜
2013年秋に三善晃の訃報が伝わった時、「作曲の戦後が終わった」と感じた人も多かったのではないか。緻密な作風で人気を二分していた武満徹が孤高を貫いたのとは異なり、三善は常にアカデミズムのトップにいた。彼のすごいところは、それだけの重責(多くは創作活動とは関係のない業務)を果たしながら、質量ともに創作の密度が全く落ちなかった点だ。鋭い耳に裏打ちされた完璧なエクリチュールをひっさげてデビューしながら、生と死を鋭く見つめ端正な作風を自らつき崩していった。同時に長年にわたって桐朋学園大学の教師、さらに学長を務め、多くの後進を育てた。三善こそ戦後日本作曲界の偉大なる父といっても過言ではなかろう。
来る2月、その業績を振り返るコンサートが桐朋学園の関係者たちによって2夜にわたり行われる。5日は合唱曲と歌曲の夕べ。三善の紡ぐポエジーは文学と深く強振し、音楽と言葉のあわいに斬新なリリシズムの領域を切り開いた。その軌跡をたどる。独唱曲には腰越満美、与那城敬、半田美和子が名を連ねる。6日はオーケストラ作品の夕べ。60年代のヴァイオリン協奏曲やピアノ協奏曲が抜きんでた書法で同時代人を驚嘆させたとするなら、80年代の「響紋」は冥界へと大胆に踏み込んで聴き手を震撼させた。90年代の「焉歌・波摘み」では打ち寄せる波の間に死者の声を聴く。桐朋学園オーケストラを指揮する沼尻竜典は三善への敬愛を隠さないが、彼自身も広い意味では三善の教育が生んだ成果。壮絶なドラマを聴かせてくれるはずだ。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年1月号から)
合唱曲と歌曲の夕べ 2015.2/5(木)19:00
オーケストラの夕べ 2015.2/6(金)19:00
東京オペラシティ コンサートホール
問:桐朋学園演奏課03-3307-4158/東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999
http://www.tohomusic.ac.jp