シルヴァン・カンブルラン(指揮) 読売日本交響楽団

モダンで精緻な安息への祈り

左:シルヴァン・カンブルラン ©読響
右:金川真弓 ©Victor Marin

 シルヴァン・カンブルランが、また読響に還ってくる。ドイツ人指揮者ヴァイグレのもとで重層的な響きを獲得している同楽団だが、2010〜19年に常任指揮者を務め、現在は桂冠指揮者のカンブルランが振ると、往時の精妙な音と音楽が蘇るのが実に興味深い。

 今回は4月のシーズン開幕定期への登場。その点にも期待の高さがうかがえる。しかも演目が凝っている。前半はナチスの支配を避けて渡米した東欧作曲家の作品。最初のマルティヌー「リディツェへの追悼」は、ナチスに全滅させられた母国の村へのレクイエムで、抑制された響きや不協和音が重く迫り、最後はベートーヴェンの「運命」の動機が鳴り響くシリアスな音楽だ。次のバルトークのヴァイオリン協奏曲第2番は、現代的な語法と民俗的な要素を併せ持つモダンで色彩的な作品、作曲者最盛期の傑作としても名高い。独奏は、19年チャイコフスキー国際コンクール入賞以来、国内楽団の大半に客演して皆を感嘆させている金川真弓。確かな技巧と表現力を持つ実力者が、この難曲をどう弾くのか? 大いに注目される。

 そして後半はメシアンの「キリストの昇天」。全4楽章の清澄ながらもカラフルな音楽で、作曲者初期の代表作でもある。ここでは当然、シェフ時代に《アッシジの聖フランチェスコ》や「彼方の閃光」等の名演を残した“メシアンの泰斗”カンブルランのベスト・パフォーマンスが発揮される。 

 1943、38、33年と近い時期の完成作が並ぶ内容は、音楽的な示唆に富んでいると同時に、現世にもこの上なく相応しい。我々はそれにじっくりと耳を傾けたい。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2024年4月号より)

第637回 定期演奏会 
2024.4/5(金)19:00 サントリーホール
問:読響チケットセンター0570-00-4390 
https://yomikyo.or.jp