取材・文:柴田克彦
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団やウィーン国立歌劇場管のメンバーを中心とした「トヨタ・マスター・プレイヤーズ,ウィーン」が、3~4月に全国で公演を行う。その中で、4月3日に愛知県芸術劇場で開催されるのが、「幻想、夢、そして冒険の世界へ」と題した一夜限りのコンサート。当公演の後半では、名古屋フィルハーモニー交響楽団との合同演奏によるR.シュトラウスの交響詩「死と変容」と「ドン・キホーテ」が披露される。そこで両曲を指揮する下野竜也に話を聞いた。
── まずは今回「ウィーン・プレミアム・コンサート」の指揮を依頼されてのご感想からお聞かせください。
このコンサートでは、2015年に「展覧会の絵」、16年にマーラーの交響曲第9番を指揮しました。こうした作品をコンサートマスターのフォルクハルト・シュトイデさんをはじめとしたウィーンの大家の方々と演奏する機会をいただいたことを光栄に思いましたし、貴重な財産にもなりました。今回、再びお話をいただき、“The ウィーン”ともいえるR.シュトラウスのプログラムで経験を積ませていただけることを、大変嬉しく思っています。
── 前2回の手応えはいかがでしたか?
ウィーンは私が留学していた街で、ウィーン・フィル等のメンバーは学生として遠巻きに見ていたスターたちです。そうした方々が並んでいるのを見て緊張しましたが、皆さんとお話しし、色々なアドバイスもいただいて、大変勉強になりました。まずはその点に尽きます。
中でもマーラーの9番を指揮する機会は稀ですし、この彼岸へと向かう音楽は、通常の精神状態では演奏できません。しかし、ウィーンの音楽家が奏でる独特の香りやニュアンスを、名古屋フィルの皆さんとともに感じ取りながら演奏できました。
── 「ウィーン・プレミアム・コンサート」の特徴とは?
日本人にとって別格の音楽都市ウィーンから来た音楽親善大使たちが、トヨタさんのバックアップで全国を訪れる点が大きな特徴。しかもウィーンの中でも選りすぐりの方々が集まって、楽しんでいらっしゃる。そこがいいですよね。またこの公演では、小菅優さんや日本の若いソリストとの共演機会もあるので、日本とウィーンの交流を果たす、春の風物詩になっていると思います。
── 「トヨタ・マスター・プレイヤーズ,ウィーン」の魅力は?
とても素晴らしいですね。ウィーンでイメージされる優雅な面や独特の陰影はもちろんありますが、アグレッシブで生き生きとした感じがします。皆さん自由、活発に演奏し、シャンパンの栓を抜いた時のような弾けた音が生まれます。ですからお客様もウィーン・フィルとはまた違った濃いウィーンの香りを味わえると思います。
── 名古屋フィルに関しては、どう思われていますか?
もう20年以上の付き合い。定期演奏会も度々指揮し、東南アジアへの演奏旅行にもご一緒させていただきました。特徴はフレキシビリティの高さ。作品に沿って色々な音を出してくれます。
── 今回の合同オーケストラならではの妙味とは?
ウィーンの方々が引き出しから色々なものを出してくると、あらゆるパートで化学反応が起きて、普段よりも賑やかな雰囲気になります。つまり、最初から完璧に演奏できる名古屋フィルの良さも残しながら、日常から離れる。そこが特別な面白さですね。
── R.シュトラウスの「死と変容」の魅力は?
最後に浄化されて変容していくシーンは、何度聴いても感動的ですし、中間部の激しい音楽も素晴らしい。オペラ作曲家シュトラウスならではの、物語を感じさせる表現力がすごいと思います。それにこの曲は、私がN響の初指揮など、ここぞという時に演奏している、特に大切な作品。とにかく、どなたにもオーケストラの壮大な響きを存分に味わっていただけます。
── 同じく「ドン・キホーテ」については?
この曲の魅力は、ドン・キホーテやサンチョ・パンサが目の前にいるような音楽が繰り広げられること。音による壮大なパントマイムを見ているような曲です。有名な風車への突撃など、様々な場面が展開され、最後はドン・キホーテが人生を顧みながら亡くなっていくといった、言葉のないストーリーを味わえますし、色々な楽器が使われていて、見ても聴いても楽しい作品です。チェロとヴィオラのソリスト2人の力も必要ですが、今回はウィーン・フィルの方々が色々な表現を聴かせてくれると思うので、とても楽しみです。
── ところで、ウィーンに関する思い出はありますか?
文化庁の在外派遣研修員として2年間留学し、その後も長く住まいを持っていました。ですので思い出はありすぎるくらい。オペラを毎日のように観ることができたのも幸せでしたし、ウィーン・フィルのリハーサルの見学もできましたので、大学の先生方に教わったことを含めて、指揮活動のエネルギーになっています。
街としては、ギスギスしていないラフな感じが面白い。東洋から来た学生に対しても寛容でしたね。でも、ウィーン独特の音楽の本質には、学ぼうと思っても近づけない難しさがありました。日本人である自分がどこまで迫れるか色々考えさせられた街でもあります。
── 最後に今回の公演に向けての思いをお聞かせください。
留学したのは20年以上前ですし、ウィーン・フィルもウィーンの音楽もどんどん変わってきています。ですから、彼らが今音楽で大切にしていること等を勉強させていただく貴重な機会だと思っています。でも同時に、ウィーンの皆さんと一緒に純粋に楽しみたい。彼らから見た日本のオーケストラも興味深いと思いますので、これは国際交流の場でもあります。それにシュトイデさんは広響のミュージック・パートナーを務めていて面識もあるので、再びご一緒できるのが楽しみです。
【Profile】
Tatsuya SHIMONO
NHK交響楽団正指揮者、札幌交響楽団首席客演指揮者、広島ウインドオーケストラ音楽監督、広島交響楽団桂冠指揮者。鹿児島生まれ。2000年東京国際音楽コンクール、01年ブザンソン国際指揮者コンクール優勝。国内主要オーケストラに定期的に招かれる一方、チェコ・フィル、バルセロナ響をはじめとした国際舞台でも活躍。これまでに読売日本交響楽団正指揮者、同首席客演指揮者、京都市交響楽団常任首席客演指揮者、広島交響楽団音楽総監督を歴任。東京藝術大学、東京音楽大学にて後進の指導にあたる。齋藤秀雄メモリアル基金賞、芸術選奨文部科学大臣賞、東燃ゼネラル音楽賞奨励賞、有馬賞、広島市民賞、中国文化賞など受賞多数。NHKFM「吹奏楽のひびき」パーソナリティ。
【Information】
ウィーン・プレミアム・コンサート
【PROGRAM B】幻想、夢、そして冒険の世界へ
2024.4/3(水)19:00 愛知県芸術劇場 コンサートホール
出演/トヨタ・マスター・プレイヤーズ,ウィーン(管弦楽)、
名古屋フィルハーモニー交響楽団(管弦楽、第2部のみ)、
下野竜也(指揮、第2部のみ)、エルヴィン・クランバウアー(フルート)、
ペーテル・ソモダリ(チェロ)、エルマー・ランダラー(ヴィオラ)
曲目/モーツァルト:フルート協奏曲第1番 ト長調 K.313
R.シュトラウス:交響詩「死と変容」、交響詩「ドン・キホーテ」
問:中日新聞コンサートデスク052-678-5323
https://www.toyota.co.jp/tomas/
*その他の公演の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。