小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトのリハーサルが進行中!

まもなく京都・横浜・東京で《コジ・ファン・トゥッテ》を上演

エル・システマ出身の指揮者ディエゴ・マテウス

 今月中旬に京都・横浜・東京での本番を控えた「小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクト」のリハーサルが現在行われている。サイトウ・キネン・オーケストラ(SKO)のメンバーを中心とする、日本を代表するベテラン音楽家たちが、オーディションを通過した若い塾生たちを指導。オペラ作品を題材に、リハーサルにたっぷりと時間をかけながら学んでいく貴重な場となっている。

 3月1日から5日まで、調布市にある桐朋学園大学の練習場で行われたオーケストラのリハーサルでは、午前に各楽器ごとの分奏、午後に全体練習が組まれ、今年の演目《コジ・ファン・トゥッテ》本番に向けた練習が進められた。

 編集部が取材に訪れたときには、昨シーズンから首席指揮者となったベネズエラ出身のディエゴ・マテウスによる全体練習が行われていた。豊嶋泰嗣(ヴァイオリン)、川本嘉子(ヴィオラ)、原田禎夫(チェロ)、宮本文昭(オーボエ)、山本正治(クラリネット)ら百戦錬磨のプレイヤーたち(以上敬称略)が、オケの中に入って塾生たちと並んで座り、アドバイスを送る。

休憩中も練習する塾生に指導する山本正治

 序曲のプレストのセクションでは、八分音符の速い音型で、リズムが不正確で音の粒立ちが曖昧になったり、急いでしまったりする箇所を特に取り出して練習。パートごとに細かい指示が飛んでいた。ヴァイオリンは、弓を持たず左手だけで、正確なリズムをキープして指で弦を押さえる練習も。ディエゴの「モウイッカーイ!」という掛け声には笑いも起きていた。

塾生とコーチの和気藹々とした交流も

 休みをはさんで行われた歌手陣との初合わせには、すでに京都入りしていたカヴァーキャストたちが京都から日帰りで駆けつけた。第1幕のコミカルな五重唱をはじめ、モーツァルトならではの歌手たちの軽妙なやり取りや通奏低音との絡みを肌で感じ取りながら、塾生たちはオペラ特有の気の配り方を体験していく。

カヴァーキャストたちと
左より:西山詩苑、高野百合絵、ディエゴ・マテウス、中川郁文、市川宥一郎、十合翔子、井出壮志朗

 練習の合間に、SKOメンバーで、音楽塾設立当時からコーチとして後進の指導にあたってきたオーボエの宮本文昭さんが、小澤さんが亡くなって1ヵ月となる今の心境を語ってくれた。
「全部が走馬灯のように頭の中を流れていく感じがしますね。SKOでもずっとご一緒していたので、その流れで教えることになって。いま、こうして音楽塾を迎えると、やっぱり(小澤さんに)いてほしいな、と思ってしまいますね」

 音楽塾のスタートから四半世紀近くが経つが、若い音楽家たちへ伝えたいことはあまり変わっていないという。
「“誰にも演奏できないフレーズをさっと吹く”ということを大事にしてほしい。それは枠からはずれて奇異なことをやるということではなくて、当たり前だけど、誰が聴いてもその中に個性が光るように、ということ。国民性なのかもしれないですが、日本の若い学生さんは決められた中で課題をこなすのはすごく上手なんだけど、何か個性を出さなきゃいけないってときに難しくなる。でも、そうじゃない方がいいっていうことを、たぶん小澤さんも当時から伝えたかった」

合奏の合間にアドバイスをする宮本文昭

 塾生の中にはオペラ経験が初めてという人も多いが、まずは失敗を恐れずチャレンジしてほしいと宮本さんは語る。
「(小澤)マエストロもよく言ってましたよ、『オケだけで練習しているときは思いっきりやりなさい』って。それでピットに入ったら、オケがうるさくなりすぎないように一生懸命塩梅をして、それでもどうしても駄目だったら調整する。その代わり、『ここは思い切って音を出して発散しなさい』という箇所を小澤さんはよく作っていらした。たとえば《こうもり》のときは冒頭は全員立って演奏したり。思い切って演奏していいということを少しでも味わってほしいということ。日本人はどうしても『聴き合わせて一緒にやろう』っていう風になりやすいけど、そういう感情を忘れないように頑張ってほしい」
 宮本さんのことばは、まさに小澤さんからの“宿題”なのかもしれない。

 3月7日から、オーケストラと歌手陣がロームシアター京都のステージで共に舞台を創り上げていく次なるステップが始まっている。すべての関係者が特別な思いをもって臨むであろう今回の音楽塾。かつて小澤さんが若き日に海外で初めて振った演目でもある《コジ・ファン・トゥッテ》の幕がまもなく開く。

取材・文:編集部
写真:大窪道治/2024 Seiji Ozawa Music Academy

小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトXX
モーツァルト:歌劇《コジ・ファン・トゥッテ》[全2幕]〈原語(イタリア語)上演/字幕付〉


◎京都公演
2024.3/15(金)18:30、3/17(日)15:00 ロームシアター京都 メインホール

問:ロームシアター京都チケットカウンター 075-746-3201
◎横浜公演
2024.3/20(水・祝)15:00 神奈川県民ホール

問:チケットかながわ 0570-015-415
◎東京公演
2024.3/23(土)15:00 東京文化会館

問:東京文化会館チケットサービス 03-5685-0650
https://ozawa-musicacademy.com

出演
フィオルディリージ:サマンサ・クラーク
ドラベッラ:リハブ・シャイエブ
フェランド:ピエトロ・アダイーニ
グリエルモ:アレッシオ・アルドゥイーニ
デスピーナ:バルバラ・フリットリ
ドン・アルフォンソ:ロッド・ギルフリー

音楽監督:小澤征爾
指揮:ディエゴ・マテウス(小澤征爾音楽塾首席指揮者)
演出:デイヴィッド・ニース
装置・衣裳:ロバート・パージオーラ
照明:高木正人
管弦楽:小澤征爾音楽塾オーケストラ
合唱:小澤征爾音楽塾合唱団

子どものためのオペラ
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトXX
モーツァルト:歌劇《コジ・ファン・トゥッテ》より[第1幕]〈原語(イタリア語)上演/字幕付〉

2024.3/12(火) ロームシアター京都

出演
フィオルディリージ:高野百合絵
ドラベッラ:十合翔子
フェランド:西山詩苑
グリエルモ:市川宥一郎
デスピーナ:中川郁文
ドン・アルフォンソ:井出壮志朗

音楽監督:小澤征爾
指揮:ディエゴ・マテウス
演出:デイヴィッド・ニース
管弦楽:小澤征爾音楽塾オーケストラ
合唱:小澤征爾音楽塾合唱団
(対象:京都の小学生を無料招待/一般公開なし)