アイリスオーヤマ・クラシックスペシャル2024
パスカル・ヴェロ & 仙台フィル 仏蘭西(フランス)から亜米利加(アメリカ)

パスカル・ヴェロ

色彩豊かに躍動する“アメリカ音楽の杜”

文:池上輝彦(日本経済新聞社チーフメディアプロデューサー)

 「仏蘭西(フランス)から亜米利加(アメリカ)」とは刺激的だ。仙台フィルハーモニー管弦楽団は6月6日、サントリーホールで東京公演「アイリスオーヤマ・クラシックスペシャル2024 パスカル・ヴェロ&仙台フィル 仏蘭西から亜米利加」を開く。2019年から始めて24年で5回目。創設50年の23年公演に続きパスカル・ヴェロが指揮する。オルガンは梅干野安未(ほやの あみ)。曲目はフランスに縁のある米国人作曲家ガーシュウィンとコープランドの大作。色彩豊かに躍動する演奏が、“アメリカ音楽の杜”の魅力を引き出す。

積極的な演奏がもたらす推進力

 1973年創設の仙台フィルは、「杜の都」仙台の音楽文化の中心的役割を担っているが、全国的にも存在感を高めている。さらに海外での知名度向上も目指して重視しているのが東京公演。仙台フィル副理事長の大山健太郎アイリスオーヤマ会長は「当社の主催で東京公演を毎年続ける」と意気込む。2024年も仙台フィルの桂冠指揮者ヴェロに指揮を託し、ガーシュウィン「パリのアメリカ人」、コープランド「オルガンと管弦楽のための交響曲」「交響曲第3番」という得意の米国音楽を披露する。

 ヴェロは仏リヨン生まれ。ソルボンヌ大学を卒業後、パリ国立高等音楽院に学んだ。1985年民音の指揮者コンクール(現東京国際指揮者コンクール)で3位と齋藤秀雄特別賞を受賞。小澤征爾の招きでボストン交響楽団副指揮者になるなど、日本と縁が深い。2006年から仙台フィルの常任指揮者を務め、18年には桂冠指揮者に就任し、同楽団を育ててきた。厳しい指導の一方で、公演では「積極的に演奏できるところが魅力」(コンサートマスター:神谷未穂)と、自由度の高い演奏を引き出す指揮が特徴。そこから特にフランスや米国の音楽で輝かしい色彩感と推進力が生まれてくるようだ。

Pascal Verrot

軽快なガーシュウィン「パリのアメリカ人」

 まずガーシュウィンの「パリのアメリカ人」。1926年に渡仏したガーシュウィンは、ラヴェルに師事しようとした。背景には24年初演の「ラプソディ・イン・ブルー」でグローフェが管弦楽編曲を担当した経緯がある。ガーシュウィンは奮起して管弦楽法を独学し、翌25年に「ピアノ協奏曲 ヘ調」を作曲した。それに飽き足らず、フランスで師を探したが、ラヴェル、ストラヴィンスキー、そして名教師ナディア・ブーランジェに断られた。「一流のガーシュウィンが二流のラヴェルになる必要はない」とのラヴェルの励ましの言葉は有名だ。

 独学の人ガーシュウィンがフランス体験をもとに完成させた管弦楽曲が1928年の「パリのアメリカ人」。1920年代といえば、第一次世界大戦の戦勝国である米国の芸術家がパリに住み、詩人ガートルード・スタインが彼らを「失われた世代(ロスト・ジェネレーション)」と名付けた時代。ヘミングウェイが小説「日はまた昇る」を書き、後に「移動祝祭日」で回想した。フィッツジェラルドの小説を象徴するジャズ・エイジの音楽もフランスに伝わった。

 そうした時代にあって、ガーシュウィンは「パリのアメリカ人」でミヨーやプーランクらフランス六人組とラヴェルの影響を反映しつつ、米国らしい軽快さやユーモアを盛り込んだ。サクソフォンやウッドブロック、タクシーのクラクションなど楽器編成も斬新だ。「パリのアメリカ人」は、仏ブザンソン国際指揮者コンクールで優勝し米国で実績を重ねた小澤征爾の十八番でもあった。小澤のもとでキャリアを積んだヴェロの指揮は、仙台フィルからこの曲の鮮やかで華やかな響きを引き出すことだろう。

昨年の公演より

オルガンも登場、コープランドの交響曲

 一方、コープランドの曲は2つ。「オルガンと管弦楽のための交響曲」はコープランドの管弦楽第1作。のちにオルガン無しの編曲もして「交響曲第1番」とした。コープランドはガーシュウィンよりも早い1921年、21歳でパリに留学し、ナディア・ブーランジェに師事した。指揮者クーセヴィツキーの委嘱で1924年に作曲したのがこの作品。翌25年のニューヨークでの初演はブーランジェがオルガンを担当して成功し、師への恩返しとなった。

 今回、オルガン独奏は梅干野。東京藝術大学大学院修了後、パリ国立高等音楽院に留学。2015年ルクセンブルク・デュドランジュ国際オルガンコンクールで優勝。特にフランス音楽の色彩豊かな演奏で高い評価を受ける。この交響曲ではドビュッシーらフランス近代音楽の影響に加え、ブルース調や八音音階、不協和になる対位法といったコープランド独自の素材や手法が駆使されている。サントリーホールの誇るパイプオルガンを弾く梅干野、ヴェロ指揮の仙台フィルがいかに斬新な響きを生み出すか、興味は尽きない。

梅干野安未

 そして最後はコープランド畢生の大作「交響曲第3番」。金管楽器による華々しいファンファーレが第1楽章と最後の第4楽章で登場するなど、明るく前向きな雰囲気が圧倒的な感動をもたらすはずだ。エスプリに富んだ選曲。仙台フィルの東京公演は、これらの米国音楽を今後のコンサートの定番曲として知らしめそうだ。

アイリスオーヤマ・クラシックスペシャル2024
パスカル・ヴェロ & 仙台フィル
仏蘭西(フランス)から亜米利加(アメリカ)

2024.6/6(木)19:00 サントリーホール

出演
パスカル・ヴェロ(指揮) 仙台フィルハーモニー管弦楽団
梅干野安未(オルガン)

曲目
ガーシュウィン:パリのアメリカ人
コープランド:オルガンと管弦楽のための交響曲
コープランド:交響曲第3番

チケット
S席:8,000円 A席:7,000円 B席:6,000円 C席:5,000円 P席:4,500円 ユース席:1,500円*
*演奏会当日25歳未満の方が対象

問:ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212
https://www.japanarts.co.jp