ドミンゴ・インドヤン(指揮) ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団

期待の新進が振るイギリス最古のオーケストラと辻井伸行の響宴

 コロナ禍も明けた2023年夏のロンドン。この街の名物音楽祭である「BBCプロムス」にドミンゴ・インドヤン指揮ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団が登場した。ソリストは日本が誇る辻井伸行。あの巨大なホールを観客が埋め尽くす風景は映像などでご覧になったことがあるだろうが、7,000人もの聴衆をこのコンビは熱狂させた。演奏されたのは2023年が生誕150年であったセルゲイ・ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番を含んだ興味深いプログラム。その熱狂のコンサートが今年5月に日本で再現される。5月11日に佐賀市文化会館でスタートする今回のツアーでは、大阪、東京、埼玉(特別追加公演)、新潟、長野で公演が予定されており、東京では14、15日の二夜にわたって、ラフマニノフの代表的な2曲のピアノ協奏曲を聴くことができるのが嬉しい。

ドミンゴ・インドヤン ©John Millar

 ドミンゴ・インドヤンはベネズエラのカラカス生まれ。あのエル・システマで音楽教育を受け、その後スイスのジュネーヴ高等音楽院で指揮を学んだ。2013〜16年にはベルリン国立歌劇場でバレンボイムのアシスタントを務め、21年にイギリス最古のオケのひとつ、ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団(1840年創設)の首席指揮者に就任した。前任者ヴァシリー・ペトレンコが新たな歴史を作ったこの名門を、インドヤンはさらに前進させつつあり、その成果の一部を今回の日本のツアーで示してくれるはずだ。ショスタコーヴィチの交響曲第5番、チャイコフスキーの交響曲第5番という重量級の傑作を選んだのも、彼らの自信の表れだろう。

 さらに、フランス近代の新古典主義時代を代表する作曲家ルーセルの「『バッカスとアリアーヌ』第2組曲」、イギリス近代のウォルトンの喜劇的序曲「スカピーノ」という選曲も、日本のオーケストラの定期公演では滅多に並ばないアペリティフとなる。

辻井伸行 ©Yuji Hori

 もちろん辻井がソリストを務めるラフマニノフのピアノ協奏曲第2番&第3番は注目の演奏となる。聴くたびに、その音楽の深さを増している辻井の演奏は、インドヤン&ロイヤル・リヴァプール・フィルとの信頼に繋がれたコラボレーションでイギリスの聴衆の心を捉えた。今回は辻井のホームで迎えるコンサート・ツアーなので、より一層、指揮者とオーケストラとの対話が親密なものになり、ラフマニノフが作品のなかに潜ませた様々な味わいを汲み尽くしてくれるだろう。いまこそ、その醍醐味をあじわうべし。
文:片桐卓也
(ぶらあぼ2024年3月号より)

2024.5/11(土)15:00 佐賀市文化会館(0952-32-3000)
5/12(日)14:00 大阪/フェスティバルホール(ABCチケットインフォメーション06-6453-6000)
5/14(火)、5/15(水)各日19:00 サントリーホール(チケットスペース03-3234-9999)
5/16(木)14:00 埼玉/ソニックシティ(同上)
5/17(金)19:00 りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館 コンサートホール(TeNYチケット専用ダイヤル025-281-8000)
5/18(土)15:00 ホクト文化ホール(長野県県民文化会館)(テレビ信州チケットセンター026-225-0055)
https://avex.jp/classics/rlpo2024/
※公演によりプログラムは異なります。詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。