INTERVIEW 工藤重典(フルート)

日本フルート界の第一人者である工藤重典さんが2月14日、紀尾井ホールで「工藤重典プロデュース 東京チェンバー・ソロイスツ Vol.2」を開催する。その聴きどころを工藤さんの愛弟子である神田勇哉さん(東京フィルハーモニー交響楽団 首席フルート奏者)がインタビューしました。

神田 まず「工藤重典プロデュース」とありますが、他のオーケストラのコンサートよりも自信をもってアピール出来るポイント、力を入れてること、挑戦したいこと、聴いてほしいところはどこでしょうか?

工藤 このシリーズは、フルートが黄金期であった18世紀の音楽を中心にプログラムを考えています。バロック期やJ.S.バッハの息子たち、またモーツァルトが活躍していた18世紀こそ、フルートが大活躍していた時代でした。その時代に生まれた数百曲に及ぶフルート協奏曲や室内楽、独奏曲など、今では演奏される機会が多いとは言えません。当時は協奏曲と言っても室内楽のような雰囲気で演奏されてた筈ですから、気心の知れた仲間たちと和気あいあいと楽しみながら会話を楽しむ、そんな演奏をこころがけたいと思っています。

神田 パッヘルベルのカノンは人気曲ですが、生演奏が聴ける機会は少ないと思います。こちらの選曲の理由は?

工藤 この曲は、ジャン=フランソワ・パイヤール氏が世の中に広めた曲です。1982年米ビルボードのクラシック・チャートで1位になるほど人気を博しました。私が彼らとアメリカツアーをした時も、プログラムには必ずこのパッヘルベルのカノンが入っていました。今でもパイヤール氏がアレンジしたものを使っています。

神田 工藤先生は、シーゲルさん、 ボーマディエさんとは昔から親しくされているとのことですが、 今までどのようなお付き合いがありましたか?

工藤 シーゲルさんと初めて会ったのは、パイヤール室内管弦楽団で初めて共演することになった時です。チェンバロというどちらかと言えば感情表現が難しい楽器をあたかも血が通った旋律を奏でていたのがとても印象的で、すぐ話をして意気投合しました。また、ボーマディエさんとは、ランパルを通して弟子たちが集う時に会ったのが最初だったと思います。当時、すでにフランス国立管弦楽団のソロ・ピッコロとして活躍していたボーマディエ氏のピッコロは際立ってました。彼とはすぐ打ち解けて、1792年出版のモーツァルトの4つのオペラのデュオ版をCD2枚組としてパリで出しました。以来、シーゲル氏とはフランスや日本、アメリカでのツアーで共演してます。ボーマディエ氏は、彼の提案でフルートとピッコロのデュオをフランスと日本で演奏してきました。CDも3枚目を録音しました。

左:ジャン=ルイ・ボーマディエ
右:リチャード・シーゲル

神田 過去のパイヤールさんとのコンサートでの思い出などありましたら教えてください。

工藤 パイヤール氏とは、最初レコーディングの仕事でご一緒しました。私が33歳の頃、ある日突然電話があり、「あなたとヴィヴァルディの協奏曲を録りたい」と言ってきた人がいました。私はいきなりそんなことがあるのものかと、半信半疑で話を聞くと、その電話の相手はパイヤール氏本人でした。 かなり緊張して言葉が出なかったのを覚えていますが、そのレコーディングが成功し、その後、全曲録音をして、その他にも何枚か録音しました。そして親交を結び、その後のアメリカツアーや日本ツアーにつながっていきました。彼はとてもインテリな方で、音楽を感情だけで演奏せず、常に和声や旋律のバランスを考えて楽曲の解釈をしていました。数百枚に及ぶレコーディングが世界中で愛されたのは、その絶妙な音色の使い方や音量バランス、そして何より彼の素晴らしい感性が室内オーケストラの歴史を作ったのだと思います。

神田 ボーマディエさんはピッコロのソリストとして活躍されていますが、聴き手としてソロのピッコロ、またはボーマディエさんの魅力はなんでしょうか?

工藤 彼は、ピッコロという楽器を忘れるために吹いていると思います。彼のやりたいことは音楽です。ブラームスのハンガリー舞曲やチェロの曲までピッコロで演奏し、 聴き手はその本質に迫る演奏に驚きを感じます。

神田 バッハのブランデンブルクの5番がありますね。ソロは森下さん。二人のご関係、そして二人でどのようなバッハの世界を作ろうと思いますか?

工藤 ヴァイオリンの森下さんとは、彼が桐朋学園の学生だった頃からのお付き合いです。その頃、桐朋学園の優秀な弦楽器の方たちとモーツァルトのフルート四重奏全曲を演奏したことがありましたが、その時のヴァイオリンが森下さんでした。以来、ことある事に共演しています。昨年もそうでしたが、彼はフルートとの語り口をよく知っていて、同じフレーズ、同じ音程で演奏できるのです。今回のブランデンブルク協奏曲第5番の第2楽章は、フルートとヴァイオリン、チェンバロで演奏するトリオ・ソナタです。ぜひ聴いていただきたいです。

神田 工藤先生は過去にモーツァルトのコンチェルトを何度も演奏していると思いますが、若い頃に比べ現在の年齢、経験になってのモーツァルトの音楽の見方は変わりましたか?

工藤 モーツァルトの演奏は、そのスタイルがかなり明確なだけに難しいと言えます。バロック的過ぎてもロマン派的過ぎてもだめです。彼独特のギャラントなスタイルや、その高貴で煌びやかさが必要です。しかし奥ゆかしさも求められます。若い頃は、恐らくフルートという楽器の持つ機能性や音色を見境いなく表現として表に出した演奏だったのでは、と思います。今、この歳になると見る角度だけでなく、あの音符達が立体的に見えてきます。つまり楽譜に書き記された音符が動き始め、(時にはダンスをし)演奏家の魂に問いかけます。モーツァルトという天才作曲家が目の前に現れるのです。そして、私たちの心の隙間を埋め、温かい幸せに満ちた音色に変えてくれます。

神田 ありがとうございました。2月14日を楽しみにしています!

聞き手:神田勇哉
(東京フィルハーモニー交響楽団 首席フルート奏者)

工藤重典プロデュース
東京チェンバー・ソロイスツ Vol.2

2024.2.14(水)19:00 紀尾井ホール

出演

工藤重典(フルート/指揮)
ジャン=ルイ・ボーマディエ(ピッコロ)
リチャード・シーゲル(チェンバロ)
森下幸路(ソロ・ヴァイオリン/コンサートマスター)

室内合奏団
ヴァイオリン:山下洋一、森岡聡、福田悠一郎、鎌田泉、福崎雄也、髙井敏弘、伊藤瑳紀
ヴィオラ:冨田大輔、小山佳織
チェロ:村井将、三森未来子
コントラバス:小笠原茅乃
オーボエ:副田真之介、高橋早紀
ホルン:日橋辰朗、端山隆太

プログラム
パッヘルベル:カノン ~J.Fパイヤールへのオマージュ~
C.P.E.バッハ:ピッコロ協奏曲 ニ短調(原曲 フルート協奏曲 ニ短調 Wq.22)*
J.S.バッハ:ブランデンブルク協奏曲第5番 ニ長調 BWV1050 **
モーツァルト:フルートと管弦楽のためのアンダンテ ハ長調 K.315 
モーツァルト:ロンド ニ長調 K.Anh184
モーツァルト:フルート協奏曲第2番 ニ長調 K.314

問:カジモト・イープラス050-3185-6728
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