自在に越境する声、互いにシンクロするフィロソフィ
東京オペラシティの「B→C」シリーズは同時代(コンテンポラリー)作品のチョイスに驚くほど個性が滲み出る。久々に「嗚呼、これぞB→C!」と快哉を叫びたくなったのが、ソプラノの薬師寺典子によるプログラムだ。例えばバッハとヒンデミット、早坂文雄とイタリアのブソッティ、能の謡とフィンランドのサーリアホ……と、作曲年や作曲家の年代、そして背景にある文化と、一見したところ相容れない音楽が多様に交差するとんでもない選曲にみえるが、実は共通項をもたせて丁寧に繋いでいるのだからお見事という他ない。他にもピアノと声楽の新たなサウンドを引き出すヴィトマン作品に加え、日野原秀彦と桑原ゆうは「ソプラノにおいての謡」をテーマとして新作を書き下ろす。
薬師寺がこれだけ幅広いスタイルを歌いこなせるのは、彼女の師事歴をみれば納得だろう。藝大時代は声楽をバッハ・コレギウム・ジャパンなどでもお馴染みの櫻田亮に、留学後は現代音楽のスペシャリストであるマリアンヌ・プッスール(作曲家アンリ・プッスールの娘で、世界屈指の「月に憑かれたピエロ」歌いとしても有名)と、シェルシとのコラボレーションでも知られる平山美智子に師事。そして謡を人間国宝でもある観世流能楽師、関根知孝に現在も習っている。それが緊張感のある間の使い方にも繋がっているようで、ラストに控えるシャリーノ作品にも活かされるのだろうし、日本民謡との共通項も見出せると彼女が語るリゲティと聴き比べるのも刺激的で実に楽しみだ。
文:小室敬幸
(ぶらあぼ2024年2月号より)
2024.2/13(火)19:00 東京オペラシティ リサイタルホール
問:東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999
https://www.operacity.jp