【SACD】ベートーヴェン:ハンマークラヴィーア・ソナタ/ヴァレリー・アファナシエフ

 鬼才アファナシエフが「テスタメント(遺言)」と題したアルバムを録音して6年、大作「ハンマークラヴィーア」が出た。生きているうちに挑戦し、録音を残さなければ死ねなかったと書く。演奏はとにかく遅い。通常より第1楽章で5分以上、全体でも10〜15分長い。聴き込むとアファナシエフの意図もみえてくる。独特のアゴーギクによるデリケートな表情づけが美しい。とりわけアダージョの第1主題のト長調の頂点は、さながら天使の歌。不気味な第2主題前後の楽句がとてもきれい。終楽章フーガは、声部の絡みや逆行・反行などの諸技法が透けてみえるよう。ずっしりと重みのあるベートーヴェンだ。
文:横原千史
(ぶらあぼ2024年1月号より)

【information】
SACD『ベートーヴェン:ハンマークラヴィーア・ソナタ/ヴァレリー・アファナシエフ』

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第29番「ハンマークラヴィーア」

ヴァレリー・アファナシエフ(ピアノ)

ソニーミュージック
SICC-19075 ¥3630(税込)