【会見レポート】
指揮者オクサーナ・リーニフが祖国ウクライナの想いとともに臨むボローニャ歌劇場来日ツアー

 今年、創立260周年。イタリアの名門・ボローニャ歌劇場が11月2日より、4年ぶり7度目となる日本ツアーを行う。開幕前の10月31日に、同歌劇場総裁・芸術監督のフルヴィオ・マッチャルディ、音楽監督・指揮者のオクサーナ・リーニフ、《トスカ》題名役のマリア・グレギーナ、カヴァラドッシ役のマルセロ・アルバレスが登壇して会見を行った。

左より:フルヴィオ・マッチャルディ総裁、オクサーナ・リーニフ、マリア・グレギーナ、マルセロ・アルバレス

 今回の日本ツアーではベッリーニの《ノルマ》とプッチーニの《トスカ》が上演される。《ノルマ》ではファブリツィオ・マリア・カルミナーティ指揮のもと、フランチェスカ・ドット(ノルマ)、ラモン・バルガス(ポッリオーネ)、脇園彩(アダルジーザ)、《トスカ》ではスカルピア役にアンブロージョ・マエストリと、充実の布陣。マッチャルディ総裁は「日本公演だったらこれしかないと考えて選んだ2演目。この傑作を本来あるべき姿で上演したいというのが今回のコンセプト」と日本ツアーへの想いを語る。

 指揮者のオクサーナ・リーニフは、2021年に女性で初めてバイロイト音楽祭の指揮台に立ち(24年まで4年連続で登場)、《さまよえるオランダ人》を振って話題となったオペラ界のライジングスターだ。22年にボローニャ歌劇場の音楽監督に就任した際も、イタリアの主要劇場で女性として初の監督就任となった。この12月には《トゥーランドット》でMETデビューも控えている。初来日は2008年。長崎でみた風景が《蝶々夫人》を指揮する際のアイディアになっているという。まさに飛ぶ鳥を落とす勢いの指揮者リーニフの、これが満を持しての日本オペラデビューとなる。

オクサーナ・リーニフ

 ボローニャのオーケストラの特徴を「音楽に対する想いが強く、温かみがあり、感情的で、ベルベットのような柔らかい音」と挙げた。また《トスカ》について、「プッチーニは特別な作曲家。最高傑作である《トスカ》で、私なりの解釈を日本の皆さんに披露できることがとても楽しみです。来年は(没後100年と)プッチーニにとって大事な年。それに先駆けてプッチーニの名作を日本で上演できる機会をいただけてありがたい」と語った。

 またリーニフは、「長年一緒に仕事をすることが夢だった」マリア・グレギーナとともにウクライナの出身だ。
「グレギーナさんはオデーサ生まれで、私もオデーサの歌劇場で最初のキャリアを積みました。彼女が世界中で大成功を収めているのはオデーサの人だけでなく、ウクライナの人々にとっても誇りです」

グレギーナについて語るリーニフ

 世界の名門歌劇場でさまざまな役を演じ、トスカ役の代名詞であるグレギーナ。1991年の初来日以降、何度も訪れている日本を「私の国だと思うほど、心の底から愛している。日本の皆さんの前で歌えることは非常に幸せ」と、今回の日本公演にかける想いもひとしおだ。

 さらにリーニフの言葉を受けて祖国について話し始めた。
「アルメニアとウクライナの両親を持つ私は、大きな苦しみを感じています。ただ、いま起こっている悲惨なことだけを見るのではなく、芸術を大切にしてほしい。世界で血が流れ続けている恐ろしい時代ですが、舞台を成功させてそれを世界に運び、魂の喜びを分かち合う活動は非常に重要です。なぜなら『音楽をしよう、戦争ではなく』というメッセージを伝えられると思うからです。
 今回の公演で音楽監督のリーニフとウクライナへの祖国愛を共有しながら舞台に立てることはとても嬉しいです。いまマエストロとは、オデーサでコンサートができたらと話し合っていますし、野外や劇場で歌える日を待ち望んでいます」

マリア・グレギーナ

 世界的なテノールのマルセロ・アルバレスのカヴァラドッシ役も期待したい。
「ボローニャは私にとって大切な劇場です。1997年に《清教徒》を歌ったことをきっかけに、それまで無名の歌手だった私の知名度があがり、その後のキャリアに繋がりました。今回一番楽しみにしているのは、初めてとなるリーニフさんとの共演です。
 日本では、2011年のボローニャ歌劇場《カルメン》で代役を歌い、皆さんのオペラとクラシック音楽への愛が私の心を満たしてくれたことを決して忘れません。リゴレット、ヴェリズモものなど、日本で歌うたびに大きな喜びを感じていました。
 いまのグレギーナさんの話は他人事ではなく、世界中みなが苦しんでいます。コロナ禍中もそうでしたが、私は『魂の看護師になる』『神父のように救う』ように努めたいとおもって歌ってきました。この攻撃的な世の中のことを一瞬でも忘れさせて、平和の大切さを考えてもらえたらと願っています」

マルセロ・アルバレス

 質疑応答では女性指揮者としての苦労を訊かれたリーニフ。「いまがとても大事な時期」であるとともに、「私自身が良いロールモデルでありたい」と、若い音楽家のモチベーションになりたいという強い想いもにじませた。

 さらにリーニフは、ウクライナ・ユースオーケストラ(YsOU)を創設するなど、祖国での活動も積極的だ。その一つが、自ら制作に関わり、ウクライナ出身の音楽家たちが戦時下の生活について語るドキュメンタリー映画『Salzburg- Lviv:Mozart for Solidarity(連帯のためのモーツァルト)』。30年近くウクライナのリヴィウに住み、創作活動を続けたモーツァルトの末息子、フランツ・クサヴァーの人柄を通して、ウクライナの音楽文化とヨーロッパの文化史との深いつながりを紹介する。今回の来日で彼女が「日本の皆さんへのプレゼント」として用意してきたのが、その日本語字幕付きの動画公開だ。

 様々な想いを抱えながら臨むボローニャ歌劇場の来日ツアー。最高のキャストで創られる舞台は11月12日まで、東京、高崎、滋賀、大阪で上演される。

ボローニャ歌劇場《トスカ》《ノルマ》

《トスカ》 
2023.11/2(木)18:30、11/4(土)15:00 東京文化会館
11/7(火)18:30 高崎芸術劇場
11/12(日)15:00 大阪/フェスティバルホール

《ノルマ》 
2023.11/3(金・祝)、11/5(日)各日15:00 東京文化会館
11/11(土)15:00 びわ湖ホール


問:コンサート・ドアーズ03-3544-4577(11/12以外)
  キョードーインフォメーション0570-200-888(11/12のみ)
https://concertdoors.com

*公演日により出演者が異なります。詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。