小泉和裕(指揮) 東京都交響楽団

熟練のマエストロが描き出すロシア管弦楽作品の構造美

 小泉和裕は、どこか懐かしい響きをオーケストラから引き出す。まるでカラヤンの時代を思い出させる明快な色彩美、そして安定感のあるバランスによって作られる腰のすわったどっしりとした構え。それは、オーケストラが長い歴史のなかで忘れられがちだったエッセンスを丹念に掘り起こしているかのようでもある。

 11月の都響との公演は、待望のロシア・プログラムだ。2つのロシア作品を丹念に歌わせつつ、重厚なサウンドを響かせる。そして、そこに屹立するシンフォニックな構築性。

 チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番のソリストには、イノン・バルナタンを迎える。イスラエル生まれのこのピアニストは、洗練された音色とスケール感の持ち主。都響とはアラン・ギルバートの指揮でベートーヴェンやラフマニノフを演奏して鮮やかな印象を残した。今回も、この協奏曲の華やかさ、テクニカルな側面だけでなく、透明感のあるタッチから作品がもつ立体的な響きを浮き上がらせてくれるに違いない。

 そして、プロコフィエフの交響曲第5番。都響の魅力がより発揮される、オーケストラの機能美が輝かしい交響曲だ。小泉は、奇を衒うことなく、壮大なスケールで描いてくれよう。この作品を彼は都響で1987年、1997年に取り上げた。今回は約25年ぶりの演奏となる。名匠から巨匠へ。円熟味を増したマエストロの芸術を堪能できる一夜になるだろう。
文:鈴木淳史
(ぶらあぼ2023年11月号より)

第987回 定期演奏会Aシリーズ 
2023.11/24(金)19:00 東京文化会館
問:都響ガイド0570-056-057 
https://www.tmso.or.jp