藤倉と邦楽界の実力者たちで結う祝宴の響き
開館20周年のHakuju Hallが開催する「Mostly Fujikura @Hakuju Hall」。作曲家・藤倉大の邦楽作品にスポットを当てた興味深い企画だ。尺八の藤原道山、三味線の本條秀慈郎とともに出演する箏のLEOに聞いた。
「道山さんと秀慈郎さんは、いま間違いなくその楽器の第一人者のお二人。藤倉さんのそれぞれの楽器のための協奏曲も、その元となったソロ曲を委嘱した*のもこの3人です」
今年、尺八協奏曲(2021)で早くも4度目の尾高賞を受賞した藤倉。そこへと続く三味線協奏曲(2019)、箏協奏曲(2020)も含めた邦楽器協奏曲3作での受賞とも受け取れる。(*尺八協奏曲は仏オーケストラの委嘱)
「藤倉さんが多くの奏者たちから愛される一番の理由は、“当て書き”の感覚だと思います。たとえば僕がお願いした『竜』も、提案させていただいた新しい奏法や既存の曲にないサウンドも取り入れてくださっている。ただ、箏らしい響きもちゃんと大事にしているんですね。だから聴いている人を置いてけぼりにしない。とくに最近はそのバランス感覚が絶妙で、初期の作品ともかなり変わってきていると思います。藤倉さん、オンライン稽古で秀慈郎さんに三味線を習っているんですよ。もう3年ぐらい。そんな作曲家、なかなかいなかったですよね。西洋のコンテキストを邦楽器に当てはめるのではなく、邦楽の正統的な脈絡の上にある現代曲として、より魅力を感じています」
そんな作品が次々生まれていることは、邦楽界にとっても大きな意義を持つという。
「3人とも、クラシックの奏者と対等に演奏することで新しい道筋を作ってきたつもりですが、どうしてもレパートリーが少ない。藤倉さんのような作品さえあれば、今後何十年、何百年、ずっと邦楽器のいる場所ができる。とても期待しています」
そして「Mostly(ほぼ)」だけに、藤倉作品以外も。その一曲が坂本龍一の「大航海」(1986)。ヒップホップにクラシックの歌を乗せたような作品だ。
「藤倉さん自身や、藤倉さんの作品とつながる曲を入れようと言って、最初に挙がった名前が坂本さん。3人とも大好きだし、藤倉さんも交流があった方なので。『大航海』は道山さんの提案。珍しくゴリ押しでした(笑)。どうしてだったのか、リハが始まったら聞いてみようと思ってます」
藤倉含め、「同じ熱量で、対等なやりとりで進めていける」とチームワーク良好な4人。世界が注目する気鋭作曲家の邦楽世界に身を委ねる一夜。
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ2023年10月号より)
Hakuju Hall 20周年記念
Mostly Fujikura (モーストリー フジクラ) @Hakuju Hall
2023.11/16(木)19:00 Hakuju Hall
問:Hakuju Hall チケットセンター03-5478-8700
https://hakujuhall.jp