椿三重奏団(ピアノ三重奏団)

“三姉妹”が熱き思いで描くロシア音楽の深遠

左より:礒 絵里子、新倉 瞳、高橋多佳子 (c)Fukaya Yoshinobu

 2019年に椿三重奏団というグループ名で本格的な活動を始動した高橋多佳子(ピアノ)、礒絵里子(ヴァイオリン)、新倉瞳(チェロ)が、待望のセカンドアルバムを録音した。チャイコフスキーのピアノ三重奏曲「偉大な芸術家の想い出に」とショスタコーヴィチのピアノ三重奏曲第2番という2大ロシア作品だ。

「椿三重奏団として活動を始める以前からよく演奏していた、3人の熱い思いが結実した2作品です。チャイコフスキーはとても長大で、尊敬していたニコライ・ルビンシテインへの追悼の意味合いが込められています。私はブリュッセル留学時代にイーゴリ・オイストラフ先生に師事し、ロシア奏法を学びました。ですからショスタコーヴィチにもいえますが、ロシア作品を演奏するときは弓の持ち方なども変えています」

高橋「チャイコフスキーに関して、ピアノは特に第2楽章が難しいですね。完全にその世界に入り込んで演奏に没頭しないと弾けません。葬送行進曲のあとはいつも感極まって涙が止まらなくなるのです。長い旅を終え、クライマックスのあとに静かに曲が閉じられるのがとても感動的です。私たちはだれかがリーダー的な立場を取るのではなく、対等に何でも率直に話し合い、音楽を極めていきます」

新倉「私は最後に参加したメンバーとなりましたが、おふたりがとても寛容で温かい雰囲気で迎えてくれたので、ごく自然に自分の音楽を表現することができています。ロシア作品は自分の血に入っている感じで、楽譜の裏側に潜んでいる悲しみをいかに表現するかが大切だと思います。私はいまスイスに暮らし、ドイツで舞踊などのレッスンも受けていますが、テンポの提示や息遣いが自然になってきたように感じます。常に新たなことに挑戦したいという気持ちです」

 この録音は冒頭からフィナーレまで一瞬たりとも途切れない集中力がみなぎり、ロシア作品の内包するさまざまな感情が3人の熱き演奏によって蘇り、魂の音楽と化している。

全員「今後はベートーヴェン、ラヴェル、シューベルトなどの作品が視野に入っています。室内楽の場合は音楽性と人間性が合わないと長続きしませんが、私たちはいまや3姉妹というか家族のよう。リハーサルからおしゃべりしっぱなし、笑いっぱなしという状態。そこから一気に演奏に集中していきます」

 ピアノ・トリオの新たな形を提示し、世に問う。演奏は緊迫感と親密さと情熱が渦巻く。
取材・文:伊熊よし子
(ぶらあぼ2023年10月号より)

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