9月12日、第34回「高松宮殿下記念世界文化賞」(主催:公益財団法人日本美術協会)の受賞者が記者会見にて発表され、音楽部門ではジャズ・ミュージシャンのウィントン・マルサリスが選ばれた。
第34回 高松宮殿下記念世界文化賞 受賞者
◎絵画部門:ヴィヤ・セルミンス(アメリカ)
◎彫刻部門:オラファー・エリアソン(アイスランド/デンマーク)
◎建築部門:ディエベド・フランシス・ケレ(ブルキナファソ/ドイツ)
◎音楽部門:ウィントン・マルサリス(アメリカ)
◎演劇・映像部門:ロバート・ウィルソン(アメリカ)
本賞は1988年、日本美術協会設立100周年を記念して創設された。前総裁・高松宮殿下の「世界の文化芸術の普及向上に広く寄与したい」という遺志を継ぎ、絵画、彫刻、建築、音楽、演劇・映像の5分野で世界的に優れた功績を残した芸術家に授与される。音楽部門においても、第1回のピエール・ブーレーズから昨年第33回のクリスチャン・ツィメルマンに至るまで、錚々たる芸術家たちがその名を刻んでいる。
マルサリスは1961年、アメリカ生まれ。高名なジャズ・ピアニスト、エリス・マルサリス(1934~2020)を父に持ち、家でジャズの手ほどきをうける一方、学校ではクラシックを学び、79年にジュリアード音楽院へ入学。在学中にモダン・ジャズを代表するドラマー、アート・ブレイキー(1919~1990)の率いるバンドに参加し、トランペット奏者としての頭角を現した。また作曲家としても才能を発揮し、83年にグラミー賞でジャズ部門とクラシック部門を同時受賞。さらに97年には奴隷制を扱った「ブラッド・オン・ザ・フィールズ」で、ジャズ・ミュージシャンとして初のピューリッツァー賞音楽部門受賞を果たす。ジャズをアメリカ独自の芸術として発展させる活動を続ける一方、2023年に自作の「トランペットとオーケストラのための協奏曲」がフランツ・ウェルザー=メスト指揮・クリーブランド管弦楽団(独奏:マイケル・サックス)により世界初演されるなど、クラシック音楽界でも独自の存在感を示している。
音楽部門選考委員の井上道義は、マルサリスについて「21年前、新日本フィルの演奏会で共演しましたが、舞台に出る前、彼が僕の蝶ネクタイを念入りに直してくれたことが強く印象に残っています。ジャズは黒人にとって、すべてを奪われた祖先がそれでも何かを表現したいときに音楽しかなかった、という歴史を背負ったものです。他の人種の人がそれを消化することはなかなか大変。受賞インタビューで彼自身がひそかに述べていた、『アメリカではジャズは真の意味では愛されていない部分がある』という言葉は真実だと思います。そんな中で、黒人にとっての“背骨としての文化”であるジャズを、一分の隙もなく奏でようとしているのだ、と強く実感したことを思い出します」と述べた。
また、演劇・映像部門受賞者のロバート・ウィルソンは1976年、フィリップ・グラスと共同制作したオペラ《浜辺のアインシュタイン》(2022年に日本でも平原慎太郎演出で上演)で国際的な評価を獲得。その後もアルヴォ・ペルトとのコラボレーションや、《蝶々夫人》《椿姫》など名作オペラの演出など、現代の舞台音楽シーンにおけるポジションを確立している。
各部門の受賞者にはメダルと感謝状、賞金1500万円が贈られる。
高松宮殿下記念世界文化賞
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