開幕直前! 藤原歌劇団《二人のフォスカリ》の演出家・伊香修吾にインタビュー

取材・文:井内美香

イタリア・オペラを極める藤原歌劇団ならではのヴェルディ作品が新国立劇場でまもなく上演される。バイロンの戯曲が原作の《二人のフォスカリ》だ。政治的立場と息子への愛に引き裂かれるヴェネツィア共和国総督フランチェスコ・フォスカリを主人公にした悲劇である。この舞台を演出する伊香修吾に話を聞いた。

伊香修吾

—— 上演が珍しいこのオペラをどう捉えていらっしゃいますか?

《二人のフォスカリ》はヴェルディが比較的若い頃に書いたオペラで、《ラ・トラヴィアータ(椿姫)》《リゴレット》《オテッロ》《ファルスタッフ》といったいわゆるメジャーな作品とは異なり、それほど上演回数に恵まれていません。この作品は、総督フォスカリに恨みのある政治家ロレダーノの復讐劇と解釈されることが多いと思いますが、私は少し違う見方をしています。これは“公私の区別”を題材とする作品だと思うのです。政治家には公私の区別が強く求められ、同時に、それを徹底することは時に過酷な状況を引き起こすこともあるという、現代にも通ずるテーマを提示していると考えています。

—— 舞台全体はどのように構成されていますか?

このオペラは上演時間こそそれほど長くないものの、場面転換が多いのが特徴です。その問題を解決するために、ヴェネツィアという街に特徴的な石畳と、「水の都」という別称にふさわしい水の存在、その二つを常に感じさせながらも、基本的にはシンプルな設定でいこうと決めました。なお、今回の上演では時代を現代に設定しています。先ほども申し上げたように、この作品の本質は政治家の公私の区別の問題ですので、そのためには今の観客が生きている時代に舞台を設定するのが良いと考えたのです。

—— 総督であり、父親であるフランチェスコの人物造形はどうなるでしょう。

父フォスカリが担っているヴェネツィア共和国の総督という役割は、共和国の元首かつ象徴的な立場であり、絶対君主のようにすべてを決められる力は持っていません。彼はこれまでに二度退位を希望しましたが、周囲の同意が得られず、35年近くにわたって在位しています。いわば「強いられた公人」です。かつ彼は、自分が老いの最後の段階にあることを強く意識しています。第二幕第一場の牢獄のシーンで、父が息子ヤコポに「老いゆく父の最後の抱擁を受けておくれ」と歌うところがあります。残された人生の時間の中で、再びヤコポに会うことはないと自覚している彼は、人間というものはみなこの地上に流刑にされているようなものなのだ、その地上で正義が実現されないのなら、もう正義は天上にしか存在しない。そこでいずれ再び会おう、と訴えているのです。

—— 息子ヤコポ、彼の妻ルクレツィア、そして政敵ロレダーノのキャラクターについては?

ヤコポは、ヴェネツィア貴族の子弟に求められる実業家や政治家としての能力には欠ける一方、人文主義に共感する教養人であったようです。彼は自分が置かれた元首の息子という立場になじめなかった。一方ルクレツィアは、名門コンタリーニ家からフォスカリ家に嫁ぎ、今回は、海運業や貿易業が盛んなヴェネツィアで大会社のCEOを務める女性という設定です。第二幕で、数年間会えなかったヤコポに牢獄で再会したルクレツィアが、夫の前でやっと素の自分に戻る瞬間はとても素敵です。そしてロレダーノは復讐を遂げるために政治制度をあくまでも合法的に利用する、有能で冷徹な政治家として描かれていると思います。

—— 今回の二組のキャスト、そして藤原歌劇団、新国立劇場合唱団、二期会合唱団の合同による合唱はどのような特徴がありますか?

初日組はすでに日本のオペラ界で相応の地位を築かれている方々が集まっており、安定感、貫禄を備えていると言えるのではないでしょうか。楽日組はどちらかといえば若手ですが、その分フレッシュでチームワークが強い印象です。今回、合唱団は非常に大きな役割を果たします。男声合唱は政治家、女声合唱はその政治家たちに対峙する役割を担いますが、三団体が一緒に舞台に立つことで、合唱団としての彩りが一層豊かなものになっていると思います。

——  貴重な公演になりそうですね。

日本で《二人のフォスカリ》が上演されるのは2回目、約20年ぶりだと聞いています。今回は全編ノーカットの上演となりますし、一般にはあまり知られていないこのオペラの真価を認識していただける良い機会になるよう、全員で努力してきたつもりです。劇場に足をお運びいただけたら嬉しく思います。


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【Information】
藤原歌劇団公演 (共催:新国立劇場・東京二期会)
ヴェルディ《二人のフォスカリ》ニュープロダクション

(全3幕、字幕付き原語(イタリア語)上演)

2023.9/9(土)、9/10(日)各日14:00 

新国立劇場 オペラパレス

指揮:田中祐子
演出:伊香修吾
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

フランチェスコ・フォスカリ:上江隼人(9/9) 押川浩士(9/10)
ヤコポ・フォスカリ:藤田卓也(9/9) 海道弘昭(9/10)
ルクレツィア・コンタリーニ:佐藤亜希子(9/9) 西本真子(9/10)
ヤコポ・ロレダーノ:田中大揮(9/9) 杉尾真吾(9/10)
バルバリーゴ:及川尚志(9/9) 黄木 透(9/10)
ピザーナ:中桐かなえ(9/9) 加藤美帆(9/10)
合唱:藤原歌劇団合唱部/新国立劇場合唱団/二期会合唱団

問:日本オペラ振興会チケットセンター03-6721-0874
https://www.jof.or.jp