下野竜也(指揮)

時代の記憶とともに歴代大河の名シーンが甦る

(c)三浦興一

 夏休み。すみだトリフォニーホールで2014年から続く好評企画が「下野竜也プレゼンツ! 音楽の魅力発見プロジェクト」。さまざまな切り口のテーマによる「オーケストラ付きレクチャー」(“レクチャー付き”にあらず!)は、アイディアマン下野竜也が、トリフォニーを本拠とする新日本フィルハーモニー交響楽団とともに贈る、オーケストラを親しく身近に感じられるコンサートだ。大反響を呼んだ21年に続く「NHK大河ドラマ」の第2弾。

 「個人的な嗜好も入ってくると思うんですけれども、大河ドラマのテーマ曲って、かっこいい曲が多いですよね。アカデミックな狙いというより、子どもの頃から聴いてきたという、まずそこです。そして、大河のテーマ曲は全部オーケストラ曲で、(最初の2本を除いて)NHK交響楽団が演奏している。しかも作曲は日本を代表するトップレベルの現代作曲家たち。巨人たちが、たった2分から2分半の中に凝縮した世界を描くというのはすごいことだと思うのです。今回はそんなふうに、作曲家をクローズアップしてお届けできるといいなと考えています」

リクエストにより選ばれた名作たち

 プログラムは、1963年の『花の生涯』(冨田勲作曲)から最新作『どうする家康』(稲本響作曲)まで、全62作の大河テーマ曲のうち14曲。なかでも8割方は1900年代に放送された“前期大河”から選ばれているので、シニア・ファンにはとくに沁みるコンサートになりそうだ。

 「今やっておかないと。懐かしい思いで聴いてくださる方はもちろん、どんなに時代が変わろうが、“良い”と言える作品ばかり。若い方々にも自信を持ってお届けできます。だって200年前、300年前のクラシック音楽がいまだに私たちを感動させているわけですから。ドラマ・ファン、クラシック・ファン、大河にどんな上り口から集ってきた方々にも楽しんでいただけると思います」

多くの作品を世に送り出す

 下野自身、「大河」との関わりは密接だ。過去、大河ドラマのテーマ曲を最も多く録音している指揮者は尾高忠明で8本。下野は6本で、外山雄三とともに第2位に並んでいる。『江〜姫たちの戦国〜』(2011)、『花燃ゆ』(2015)、『真田丸』(2016)、『西郷どん』(2018)、『いだてん〜東京オリムピック噺〜』(2019)、『鎌倉殿の13人』(2022)。年齢を考えても、近いうちに第1位に躍り出るにちがいない。

 「いつも前の年の秋、9月から10月初め頃に録音していたと記憶しています。ちなみに来年(紫式部が主人公の『光る君へ』)の話は来てないです(笑)。
 結局、オーケストラ曲の初演ですからね。現代作品を初演するのと同じように、スコアを勉強して、作曲家とお話しして、徹底的に準備して臨みます。1年間聴いていただく、番組の顔でもありますから、そのワクワク感を毎回感じています」

マエストロが語る録音の裏側

 収録では普段のコンサートでの演奏とは異なる苦心も。

 「映像が先にできている場合は、尺やテンポを映像と同期させなければならないので、緊張を強いられますね。それと、最近はあとでトラックを重ねることも多いので、僕もオンエアを見て初めて完成形を聴くこともあります。たとえば昨年の『鎌倉殿の13人』の男声合唱や女性ヴォーカルは、あとでハンガリーで収録したそうで、収録時には聴いてないんです。
 一方で、服部隆之さんの『真田丸』は、打ち込みのパートはいっさいない、純粋なオーケストラ作品。とても緻密なスコアでした。ヴァイオリン・ソロで始まるというのが斬新で、歴代大河のなかでも画期的なアイディアだったと思います。感動しました。独奏の三浦文彰さんとも作曲の服部さんとも綿密に打ち合わせをしていったおかげか、収録時間が史上最短記録だったそうです。早く終わればいいということではないですけどね(笑)」

 トーク・ゲストに(冨田勲とともに)史上最多5作品の大河を手がけた作曲家・池辺晋一郎。もはや“伝統芸”の域に達している軽妙ダジャレも炸裂必至!
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ2023年8月号より)

下野竜也プレゼンツ! 音楽の魅力発見プロジェクト 第10回
オーケストラ付きレクチャー「大河ドラマのテーマ曲 徹底解剖!その2」
2023.8/11(金・祝)16:00 すみだトリフォニーホール
問:トリフォニーホールチケットセンター03-5608-1212
https://www.triphony.com