モーツァルトの美学の神髄に迫る
『ウィーン音楽祭 in OSAKA 2012』や『バッハ・オルガン作品全曲演奏会』など、意欲的な自主企画で全国から注目を集めている、大阪のいずみホール。同ホールが昨年からスタートさせて好評を博しているシリーズが『モーツァルト 未来へ飛翔する精神』。モーツァルト成人後の作曲家としての轍を、3年間にわたって『2013/克服(ザルツブルク1776〜1781)』、『2014/充溢(ウィーンⅠ 1781〜1786)』、『2015/超越(ウィーンⅡ 1787〜1791)』という3つの大きなテーマでくくり、その変遷に沿ってそれぞれ5回ずつのコンサートを行うプロジェクトだ。モーツァルト・ファンの好奇心をくすぐるこのシリーズを企画したのが、いずみホール音楽ディレクターの礒山雅である。音楽学者である礒山はバッハやモーツァルトの研究者として知られ、現在は国立音楽大学招聘教授、大阪音楽大学客員教授も務めている。
今回は、ウィーン時代初期から中期に向かう作品群を扱う『2014/充溢』の第4回と第5回の内容についての聴きどころを語ってもらった。
まずは来年1月の第4回『妻と捧げる祈り』から。演目は「ハ短調ミサ曲」と「グラン・パルティータ」。
「『ハ短調ミサ』はウィーンに移ってからのモーツァルトがコンスタンツェとの結婚を誓約するためにザルツブルクで演奏した作品ですが、彼の唯一の里帰りという意味でも、モーツァルトの生涯で重要な作品です。演奏は古典派作品が素晴らしい鈴木秀美さんとピリオド楽器のオーケストラ・リベラ・クラシカにお願いすることにしました。
『ハ短調ミサ曲』は、未完成ながらモーツァルトが伝統的なテキストと取り組んだ力作。バッハやヘンデルの影響のもとに書かれ、壮大なフーガやバロック的なサウンドが聴きものですが、加えて『クレド』の“エト・インカルナートゥス”─おそらく新妻のコンスタンツェが歌ったのでしょうけれども─のコロラトゥーラ・ソプラノの美しいソロが絶品です。この部分では聖母マリアへの祈りという意味合いも含まれていると思いますが、宗教音楽家としてのモーツァルトの姿が垣間見られると思います」
このミサ曲の前には“13管楽器のセレナード”として知られる「グラン・パルティータ」が置かれる。この作品もウィーン初期に作曲された。
「ピリオド楽器が使用されますから、この機会にピリオドの管楽器ならではのカラフルな色彩のグラン・パルティータを組み合わせました。バセットホルンやコントラファゴットなど、形も音色も面白いので楽しんでください」
続いて2月の第5回『輝ける主役』ではピアニストのコンスタンチン・リフシッツが登場。交響曲第35番「ハフナー」を指揮、ピアノ協奏曲第15番と第23番の弾き振りを行う。これも興味深いプログラムだ。管弦楽は近年活躍が目覚ましい日本センチュリー交響楽団。
「リフシッツは単に楽譜を音にするだけのヴィルトゥオーゾではなく、バッハを弾く場合でもそうですが音楽に構造を持たせられる稀有な“音楽家”なのです。私はモーツァルトのピアノ協奏曲を取り上げる際に、ピアニストが指揮をするという形態を望んでいましたので、リフシッツがそれを実現してくれることになりました。ピアノと管弦楽─特に管楽器─との室内楽的な“語らい”、これこそがモーツァルトの協奏曲の生命だと思っていますので、これは大いに期待したいですね」
取材・文:城間 勉
(ぶらあぼ + Danza inside 2014年12月号から)
モーツァルト 未来へ飛翔する精神
「充溢」(ウィーンⅠ 1781〜1786)
1 学び深めた四重奏の世界 (終了)
2 友情のホルン 11/19(水)19:00
3 ここにはすべてがある! 《フィガロの結婚》全曲 12/6(土)14:00
4 妻と捧げる祈り 2015.1/17(土)15:00
5 輝ける主役 2015.2/11(水・祝)14:00
会場:いずみホール
問:いずみホールチケットセンター06-6944-1188
http://www.izumihall.co.jp