まつもと市民芸術館 芸術監督に石丸幹二ら3名が就任!

 2024年に開館20年を迎えるまつもと市民芸術館。セイジ・オザワ 松本フェスティバルの公演も行われるなど、松本市の芸術活動の拠点となっている。6月28日、開館時より芸術監督を務めてきた串田和美の後任となる新たな芸術監督の就任発表記者会見が行われ、「芸術監督団」として、芸術監督団団長・演劇部門芸術監督に木ノ下裕一、舞踊部門芸術監督に倉田翠、そしてゼネラルアートアドバイザーに石丸幹二が就任。今年度は参与として助言を行い、来年4月より正式就任となる。記者会見には、臥雲義尚・松本市長と芸術監督団の計4名が登壇した。

左より:臥雲義尚、木ノ下裕一、倉田翠、石丸幹二

 会見の冒頭に臥雲市長より、複数の芸術監督起用についての説明があった。
「まず、開館20年の節目を前に、新時代の芸術館をリードする新しい芸術監督団を選任させていただいたことを光栄に思います。芸術分野が専門分化し、クロスオーバーする今日の状況において、複数のジャンルから優れた人材を起用することが望ましいということで、今回『芸術監督団』という形を取りました。次世代に向けて発信できる、松本に馴染みのある人材としてこのお三方に就任していただくことになりました。みなさんとは直接お会いして、市民に、そして世界により開かれた劇場を目指していこうという考えを共有しました」

 芸術監督団団長・演劇部門の芸術監督に就任した木ノ下は、歌舞伎の演目を現代演劇として再編集して上演する「木ノ下歌舞伎」の主宰や、ラジオやテレビへの出演、雑誌のコラム執筆を通して、日本の古典の面白さ、楽しさを伝える活動を行っている。会見では、団長という大役を務めるにあたっての意気込みを語った。

木ノ下裕一

「私は『信州・まつもと大歌舞伎』では過去3回上演していますが、当時から劇場文化が根付いた町という印象があります。市民の方と話をした際に、皆さんが自分たちの町に劇場があるという認識をしっかりと持ち、誇りを持っていることに感動したことを特に覚えています。
 団長としては、『ひらいていく劇場』を今後のキーワードとしたいと思っています。『ひらく』には様々な漢字があてられますが、特に5つの『ひらく』を軸に考えていきたいです。
 まずは『開く』。これは市民のためのオープンな劇場にしていき、単に鑑賞しに来るだけでなく、様々な催し物を通して市民に開かれていく劇場を目指していきたいと思っています。
 次に『拓く』は、今まで踏み込めなかった領域に対して芸術監督団で邁進するということですね。様々な文化芸術の表現を開拓していくという側面もありますし、障がいがある方に向けた観劇サポートなども考えています。
 そして『易く』は、難しいものをよりわかりやすく市民の方に伝えていくということです。古典芸能やクラシック音楽などに親しみやすくなるようなイベントや講座の開催を考えています。
 また『啓く』は、劇場として様々なことを啓蒙していきます。
 最後に『披く』は、日本古典では初演することを意味する言葉です。芸術館としては、前芸術監督である串田さんの作品を初演されていて、以前から取り組んでいる活動ではありますが、今後もひらく活動として続けたいと思っています」

 続いて、京都を拠点に演出家・ダンサーとして活動し、舞踊部門の芸術監督に就任した倉田翠が今後の展望を語った。
「私は踊りの中でも、一般的には理解しづらいものとして捉えられる分野であるコンテンポラリーダンスを専門としていますが、こういったジャンルというのは、まずは出逢ってもらうきっかけづくりが大切だと思っています。松本市にはたくさんダンサーの方がいらっしゃると伺っておりますので、まずはダンスを観ていただく機会を増やしたい。そして、市民の方も鑑賞するだけでなく、一緒に作品を作る劇場にし、演者もお客さんも満足できるような作品づくりをしたいです。町が求めていることを聞き、可能性を探りながら企画を考えていこうと思います」

倉田翠

 そしてテレビ番組や演奏会の司会、ミュージカル歌手として活動する石丸にとって、松本での体験は印象的なものだったようだ。
「私がまつもと市民芸術館に初めて来たのは、サイトウ・キネン・フェスティバル(現:セイジ・オザワ 松本フェスティバル)の公演のためでした。その時は、舞台奥に仮設の客席がセットされ、客席を背にして演じるというとてもユニークな舞台セットで、こういった可能性のある劇場が日本中にあれば、と思ったのを覚えています。また、サイトウ・キネン・フェスティバルに何度が参加する中で市民の方との一体感を感じるとともに、市民の方がボランティアとして参加し、音楽祭を一緒に作り、お客さんを歓迎している姿を見て感動しました。ですので今回、芸術監督団として、市民の皆さんの意識が高い松本に関われることを嬉しく思っています」
 今後のプロジェクトについては、「以前『空中キャバレー』という作品で、舞台と客席が10センチという近さで演じました。その時に感じたような肌身に触れる、熱を感じる舞台空間を作りたいと思っています」と意気込みを語った。

石丸幹二

 今年もセイジ・オザワ松本フェスティバルが開催され、賑わいをみせるであろう音楽の町、松本。今後もより市民に開かれ、芸術界を拓いていく芸術館の新たな歩みに注目したい。

写真:平林岳志
文:編集部

【Information】
まつもと市民芸術館
https://www.mpac.jp

セイジ・オザワ 松本フェスティバル
2023.8/19(土)~9/6(水)
https://www.ozawa-festival.com