カニサレス(フラメンコ・ギター/作曲)

ジャンルを超えて活躍する世界最高峰のギタリストが待望の来日

(c)Amancio Guillén

 2011年にベルリン・フィル ヨーロッパ・コンサートで「アランフェス協奏曲」のソリストを務めたカニサレスの音楽表現は、フラメンコだけに留まらず、スペインのクラシック作品の編曲や、3作(!)もの自作協奏曲の初演、再演という形で広がり続けている。録音を終え、リリースも近いアルバムでは、恩師パコ・デ・ルシアに捧げた最初の協奏曲「アル・アンダルス協奏曲」を収録。パコの作品から最大のヒット曲「二筋の川」や「広い河」、そして哀しみと嘆きを表現する形式・タランタスの名曲「湧く泉、ゆたかな流れ」(コードのみ)を引用しつつ、師との厳しくも温かな友情を描いた。続く「地中海協奏曲」は、前作でジョアン・アルベルト・アマルゴスと共作したオーケストレーションをすべて自ら手がけ、透明な響きと気品溢れるメロディーをホアキン・ロドリーゴの想い出に捧げた。今回の来日公演では上記2曲に加えもう一つの自作コンチェルト「モサラベ協奏曲」をギター・デュオ用の組曲に編曲。同じコンセプトから生まれたまったく新しい作品として披露する。

 「管弦楽法を学んだことによって、音楽に対するビジョンの幅広さがこれまでとはまったく異なるものになりました。かつてはハーモニーをどちらかと言えばバーティカル(垂直)に捉えていたのですが、今ではすべての声部や楽器の動きが織りなす、水平な動きの重なりがハーモニーである、と感じるようになりました」

 音楽情報への認識はさらに立体的になり、これまで以上に作曲家の意図への思いが深まったと話す。一聴するとそれは、クラシカルな音楽へのアプローチがより緊密になった、という風にも受け取れるが、カニサレスはフラメンコのためにとっても、音楽理論や基礎的な法則は大切だと思っている。

 「エモーションや伝承されたアイディアだけで音楽を創造することの飽和や限界を打開して発展するために、理論や規則はより自由な創造へのツールとなるのです」

 「目を合わせるだけで何を考えているかわかる」ほどに、音楽上でも、友人としても気心の知れたギタリスト、フアン・カルロス・ゴメスとの演奏上の対話が、ホールを介してお客様との対話になっていくのを楽しみにしている、と話すカニサレス。これまで高い評価を得ているグラナドス、ファリャ 、ロドリーゴ作品もプログラムされた来日公演で、「昨日の自分を超えて異なるサウンドに出会えた時、自分の音楽が生きているという感覚になれる」という彼の現在をお聴き逃しなく!!
取材・文:鈴木大介
(ぶらあぼ2023年6月号より)

カニサレス(フラメンコ・ギター)
2023.7/16(日)15:00 浜離宮朝日ホール
問:朝日ホール・チケットセンター03-3267-9990 
https://www.asahi-hall.jp/hamarikyu/