INTERVIEW 藤井玲南(ソプラノ)

ウィーン国立音楽大学に学び、オペラをメインに活躍するソプラノ歌手の藤井玲南さん。6月1日、Hakuju Hallで開催するリサイタルの聴きどころや共演者の大萩康司さんについてお話をうかがいました。

── 選曲について。なぜ歌曲だけのプログラムで構成したのですか?

まず大萩康司さんと共演したいという想いがあり、この選曲にしました。ギターとのデュオになるので、オペラ・アリアではなく「歌曲」を中心に組んでいます。オペラのような衣裳や舞台装置はありませんが、歌曲には全体を自分で演出できる面白さがあります。副題を「Storyteller(ストーリーテラー)」と付けました。まさに物語を語るように歌いたいと思っています。

(c)Toshiyuki Tanaka

ギターという楽器は、ピアノほど大きな音量が出るものではないですが、さりとて決して小さいわけでもありません。ギターには独自の世界があると感じています。以前に大萩さんと共演させて頂いた時に、歌っていてとても呼吸がしやすいと感じたので、今回大萩さんに改めてオファーをさせて頂きました。歌曲の「言葉」を大事にして、最後の最後の余韻まで、そして残響まで味わってもらえると思っています。中世の吟遊詩人「トルバドール」のように楽器を持ちながら身軽に皆さまに音楽を届けたいですね。大萩さんとは、昨年〈ムジークフェストなら〉という音楽祭でご一緒し、その時はテーマが「ラテン音楽」でしたので、イタリア古典歌曲やフランス語の歌曲を選択しました。イタリア古典歌曲は、声楽家なら必ず触れてきた作品です。現代ではピアノ伴奏として編曲されたものがほとんどですが、ギターと演奏することでより“当時”のスタイルを感じることができました。その時に自分のなかで驚きがあったのです。いい意味で色々な要らないものがそぎ落とされ、呼吸の延長上で音楽が伝わっている感覚が心地よかったことを、とても覚えています。今回のリサイタルは英語がメインのプログラムになるのですが、その時に演奏したイタリア語の曲も数曲入れました。 

── 英語の歌曲がメインというのがユニークですね

そうです。特にやってみたい!と思ったのがブリテンの「イングランド」という曲集と、アメリカの作曲家ドミニク・アージェント(1927-2019)の「作曲家たちからの手紙」という曲集です。後者はショパンやシューベルト、J.S.バッハといった作曲家たちが実際に友人や家族などに宛てた手紙を英訳したものを歌詞にしています。「歌曲」という括りはあるものの、まるでモノオペラです。特に、今回演奏する「バッハから町議会へ」は、ニコニコしながらもバッハはすごく怒っているんだろうな、と。そんなキャラクター性がいろいろ表現できる作品です。手紙を基に書かれているので、それはもう赤裸々に思いを吐露するだけ、といった感じが text(詞)になっています。アージェントは現代作曲家ですが、とっつきにくい現代音楽ではなく、それぞれの手紙の主のキャラクターが際立つような音楽になっています。手紙を読む、歌う、という作品になっているのです。 手紙を書いた7人の作曲家(ショパン、モーツァルト、シューベルト、バッハ、ドビュッシー、プッチーニ、シューマン)の中から、今回はバッハ、シューベルト、プッチーニを演奏します。

── それぞれの作曲家はどのように描かれているのでしょうか?

今年2月から3月にかけて、数年ぶりに渡欧し、パリを訪れました。プッチーニのパートは「もうパリの生活にはうんざり!」と騒いでいるような曲なのです。“I hate Paris.”で終わるのがおかしくて。英語が母国語でない東京での演奏会で歌うので、どこまでお客様に伝わるのか分かりませんが、ユーモアとしての面白さを感じて頂ければ嬉しいです。

大萩康司(c)SHIMON SEKIYA

── 大萩康司さんの印象を教えてください。

共演者をすごくリラックスさせてくれるお人柄だと感じています。雑な意味での「いい加減」でなく、「良い加減」と言いますか(笑)。やらないといけないところはちゃんとしめてくれるけど、「なんでもいいよ!大丈夫です!」みたいな感じで、心に余裕のある方ですね。そして、すごく気さくな方です。甘いものがお好きなのか、以前リハーサルからの帰り道に「ここのシュークリーム美味しいですよ」と言ったら、ご家族の分と自身の分とをごっそり買われていて、可愛いなと(笑)。日々どこかで演奏されていて、とてもお忙しい方なのに共演を引き受けて下さってとても嬉しく思っています。

── ギターとの共演は、いかがですか?

とにかく、大萩さんとは呼吸を合わせやすいですね。「すうぅー」というブレスを聞いて入るところを、お互いに目を合わせて入ることが出来るんです。しかも、それをちゃんと汲み取って下さるというのが安心します。前回は歌いやすい作品ばかりを選んだので、曲ごとの持ち替えが必要になりギターを3本も用意いただくことになってしまいました。そんな無茶振りでも気さくに応えてくださる優しさを感じます。大萩さんのギターの音を紡ぐような感じが、今回の「Storyteller(ストーリーテラー)」にぴったりだと感じています。

── ところでこの副題、「Storyteller(ストーリーテラー)」の意味は?

“ストーリーテラー”という人物がいる訳でなく、それぞれに物語があって、それを私が語りたいという思いで付けました。全体を通しての何かというよりは、作曲家ごとにはっきりとしたストーリーがあるといったイメージです。

── お客様へのメッセージを。

“生演奏”の楽しみを知ってもらいたいですね。現代は色々なメディアで音楽を聴いたり、情報を知ることはできるけど、皆さまにも全身でその会場の雰囲気で味わう機会をもってほしいのです。オペラ・アリアをバン!って歌える人を聴いた時は、凄かったねという感想になると思うんですが、私は「心地よい振動を浴びたね」というような時間を作りたいといつも思っていて、そのために声の透明感を大事にしています。音楽浴してもらうみたいな感覚ですかね。そのひと時を味わってほしいなと思います。そして、弱い人に寄り添いたい想いがあります。だからこそ、自分は元気でいなきゃいけないなと。本当に優しい人というのはエネルギーを持っていて、だからこそ人に寄り添える。私はこれを音楽でやりたいなと思っているのです。

(2023年5月9日 東京・KAJIMOTOオフィスにて)

(c)Toshiyuki Tanaka

【Information】
藤井玲南 大萩康司 デュオリサイタル 〜Storyteller〜

2023.6/1(木)19:00 Hakuju Hall
https://hakujuhall.jp/

ダウランド:来てもう一度
チェスティ:私の偶像である人のまわりに
ジュリアーニ:6つのアリエッタ より
クィルター:シェイクスピアの歌 より
アージェント:作曲家たちからの手紙 より
ブリテン:民謡編曲集第6巻『イングランド』他

ビーフラット・ミュージックプロデュース
https://www.bflat-mp.com/t/product/230601 
KAJIMOTO
https://www.kajimotomusic.com/concerts/2023-fujii-ohagi/

チケットぴあ(Pコード:239850)
全席自由¥6,000 ※未就学児入場不可