井上道義が第54回サントリー音楽賞を受賞

佐治敬三賞は北村朋幹が受賞

 指揮者の井上道義が、第54回(2022年度)サントリー音楽賞を受賞した。同賞は、公益財団法人サントリー芸術財団が、日本における洋楽の発展に顕著な業績をあげた個人や団体を顕彰し、贈呈している。賞金は700万円。

(C)Yuriko Takagi

 井上は、1946年東京生まれ。桐朋学園大学卒業。1971年ミラノ・スカラ座主催グィド・カンテルリ指揮者コンクールに優勝。ニュージーランド国立響首席客演指揮者、新日本フィル音楽監督、オーケストラ・アンサンブル金沢音楽監督などを歴任し、日本のオーケストラはもとより、シカゴ響、ハンブルク響、ミュンヘン・フィル、スカラ・フィルなどに客演。また、2007年日露5つのオーケストラとともに「日露友好ショスタコーヴィチ交響曲全曲演奏プロジェクト」を実施し、音楽・企画の両面で大きな成功を収めた。23年には自身の作曲によるミュージカルオペラ『井上道義:A Way from Surrender 〜降福からの道〜』を手掛けるなど、斬新な企画と豊かな音楽性で唯一無二の舞台を創りあげてきた。現在、オーケストラ・アンサンブル金沢桂冠指揮者。24年12月にて指揮活動の引退を公表している。

 なお同財団は、わが国で実施された音楽を主体とする公演の中から、チャレンジ精神に満ちた企画で、かつ公演成果の高い優れた公演に贈る「佐治敬三賞」も発表。第22回(2022年度)は、「北村朋幹 20世紀のピアノ作品(ジョン・ケージと20世紀の邦人ピアノ作品)」(22.10/9 主催:滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール)が選出された。賞金は200万円。

北村朋幹 (C)TAKA MAYUMI

<サントリー音楽賞 贈賞理由>
 若くして頭角をあらわし、今年で77歳になるという年齢ならば、もはや「重鎮」や「巨匠」と呼ばれてもおかしくないのだが、井上道義をそんなふうに呼ぶ人はほとんどいない。これだけの活躍をみせながらも、その存在は強く未来を感じさせる。いまだに「若手」のようなのだ。
 泰西名曲をしっかりとりあげる一方で、現代作品の開拓にも余念がない。あるいは、あえて道化のようにふるまいながらも、その音楽は実直で正統的。そんなさまざまな矛盾が、時として彼を異端のようにも見せてきたわけだが、しかし近年の演奏においては、その矛盾がいわば豊潤へと変化を遂げ、ゆたかに実っているように感じられる。
 とりわけ2022年は、ショスタコーヴィチ作品において、スペシャリストならではの充実ぶりをみせた。2月に「交響曲第5番」(読売日本交響楽団)、「第15番」(オーケストラ・アンサンブル金沢)、「第1番」(東京フィルハーモニー交響楽団)、3月には「第8番」(名古屋フィルハーモニー交響楽団)、11月に「第10番」(NHK交響楽団)といった具合。鬼気迫るラインナップではないか。
 さらに藤倉大の新作「Entwine」(読売日本交響楽団、1月)、クセナキスの「ケクロプス」(東京フィルハーモニー交響楽団、2月)、そして伊福部昭の「シンフォニア・タプカーラ」(NHK交響楽団、11月)など、重量級の作品をこなすとともに、オール・プロコフィエフ・プログラム(兵庫芸術文化センター管弦楽団、4月)、偽作をあえて並べて見せた「モーツァルト+」(神奈川フィルハーモニー管弦楽団、5月)など、凝ったプログラミングも冴えわたっており、さらに年末にはNHK交響楽団とのベートーヴェン「交響曲第9番」で、なんともふくよかで、どこか懐かしい音の大伽藍を築いて見せた。これだけ骨のある活動を継続してきた指揮者は他に見当たらない。
 以上の理由をもって、井上道義に第54回サントリー音楽賞を贈ることを決定した。
(沼野雄司委員)

サントリー音楽賞
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佐治敬三賞
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