ピエタリ・インキネン(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団

祖国の大曲と「第九」で任期の集大成を見せる

ピエタリ・インキネン (c)山口 敦

 瀟洒な出で立ちと音作りで人気を博してきたインキネンが、首席指揮者としての最後のコンサートでは得意のシベリウス、またツィクルスで取り組んできたベートーヴェンの大作を携え、筋の通ったところを聴かせてくれる。日本ではその力量に触れる機会がないが、インキネンはオペラの評価も滅法高い。これらの大作で片鱗も味わえそうだ。

 まずはベートーヴェン・イヤーに企画していた交響曲連続演奏会。コロナでゴールが遠のいたが、任期を延長してまで取り組んだこのプロジェクトもようやく「第九」で幕を閉じる。歌手もワールドワイドに活躍するソプラノの森谷真理やバリトンの大西宇宙をはじめ、本邦最高のメンバーが揃った。

 もう一つのコンサートは、看板でもあるシベリウスから初期の大作「クレルヴォ交響曲」。フィンランドの民族叙事詩『カレワラ』を題材にした本作は、父親を殺した相手に復讐するとか、そうとは知らずに関係を持ってしまった妹が入水するとか、最後は主人公も自刃する陰惨な物語。若き作曲家はこの物語に触発されて、荒ぶる音楽を書いている。すっきり爽やかな北欧音楽というイメージとは真逆の、怨念や哀惜が渦巻いているのだ。

 兄妹が恋愛関係に陥るこの話、インキネンのもう一つの看板、ワーグナーの「リング」とも似ているが、歌唱はヨハンナ・ルサネンとヴィッレ・ルサネンという実のフィンランド人姉弟が担う。インキネンは世界各地のオケを振って曲の普及に努めているが、やはりこの曲は、フィンランドの血を引く渡邉曉雄が礎を築いた日本フィルとの演奏で聴きたい。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2023年4月号より)

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