2025年10月に開館20周年を迎える兵庫県立芸術文化センター。11月25日、周年を記念した企画についての記者発表が行われ、同館の芸術監督を務める指揮者の佐渡裕らが登壇した。
兵庫県立芸術文化センターは、阪神・淡路大震災からの「心の復興・文化の復興」のシンボルとして、05年に開館。佐渡自らプロデュースするオペラ公演や、オーディションを突破した国内外の若手音楽家により構成され、アカデミーとしての機能も持つ専属オーケストラ「兵庫芸術文化センター管弦楽団(PACオケ)」など、独自の取り組みを通じて県内を中心に根強いファンを獲得。現在では、年間約750のイベントを開催、およそ45万人の公演入場者数を誇り(23年度)、関西の音楽シーンに欠かせない劇場となっている。節目の年を迎えるにあたり、芸術監督自らタクトをとる「ジルヴェスター・スペシャル・コンサート」(24.12/29~12/31、予定枚数終了)を皮切りに、25年12月までに開催される24事業(24.11/25時点)を「開館20周年記念公演」と位置付けた。
開館に先立って、02年に芸術監督に就任した佐渡は、今に至るまでの道程を次のように振り返った。
「震災当時の県知事、貝原知事が楽屋に来られて、『“心の復興”を新しい劇場から目指したい』という言葉とともに芸術監督の打診をいただいたとき、感激すると同時に武者震いをするほど大きなプレッシャーも感じました。お客様も楽団も、すべてゼロの状態から劇場の歴史を作る、ということは自分にとっても得難い経験でした。
この20年を振り返って、コロナ禍という未曾有の危機もありましたが、結果としては手前味噌ながら成功した、という感覚はあります。そして、オペラ文化が希薄だった関西に『プロデュースオペラ』を定着させたり、PACやスーパーキッズ・オーケストラに在籍していたメンバーが全国各地、そして世界へと羽ばたいていくなど、種蒔きの期間でもあったと思います。これからは、それぞれが花を咲かせていくでしょう」
来年の「プロデュースオペラ」の演目は、同シリーズ20作目にして初となるワーグナーから《さまよえるオランダ人》(演出:ミヒャエル・テンメ)。ヨーゼフ・ワーグナーをはじめ世界の舞台で活躍する海外勢を中心にした組と、髙田智宏、妻屋秀和、田崎尚美ら国内のオペラシーンを代表する歌い手が集結する組のダブルキャスト上演が予定されている(7/19~7/27、全7公演)。PACオケの「開館20周年記念公演」は、阪神・淡路大震災から30年、祈りを込めたマーラーの交響曲第8番「千人の交響曲」他でスタート(1/17~1/19、予定枚数終了)。第二次世界大戦終戦80年に平和を願うブリテン「戦争レクイエム」(8/8~8/10)、2025-26シーズンの開幕を飾るブルックナーの交響曲第0番(9/12~9/14)を経て、同館のオープンを飾った演目でもある「第九」を満を持して取り上げる(12/12~12/14)。
「開館20周年記念公演」ラインナップには、「つながり」というテーマが一本の糸として通されているという。「海外とのつながり」で、まず佐渡が音楽監督としての最後のシーズンを迎えるウィーン・トーンキュンストラー管が登場。人気ピアニスト・反田恭平を迎えてのモーツァルトの協奏曲第23番と、マーラーの交響曲第5番を演奏する(5/10)。さらに、PACオケを巣立ったメンバーも複数名在籍しているというバーミンガム市響の公演では、音楽監督・山田和樹のタクトのもと、西宮出身の名手・河村尚子がラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を披露(6/29)。クラウス・マケラ指揮、ロイヤル・コンセルトヘボウ管のコンサートも予定されている(11/15)。そして、先述の河村の他、神戸市出身の小曽根真率いるビッグバンド「No Name Horses」公演(12/16)をはじめ「地元のつながり」のあるアーティストが多数出演。阪神・淡路大震災をテーマにした、日本演劇界の巨匠・栗山民也によるプロデュース公演『明日を落としても』も上演される(10月)。
20周年、そしてその先の抱負について、佐渡は以下の通り語った。
「実際には公演に足を運ぶことのない大多数の市民の方々にとっても、“街の劇場”として誇りに思っていただけることを目指したいと考えます。円安や予算の削減など逆風も吹いていますが、その中でもクオリティを下げず、創意工夫を凝らした舞台芸術を提供していきたい。劇場というものは、ルーティンになってはいけないと思うのです」
そして、会見終了間際に、「アーティスト・劇場・自治体のつながりが何よりも大切である」ということを改めて強調した。三位一体となって蒔いた種を芽吹かせ始める節目の年――佐渡裕と兵庫県立芸術文化センターの取り組みに注目したい。
文:編集部
兵庫県立芸術文化センター
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